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トイレ文化とビジネス戦略[炉辺閑話]

No.4889 (2018年01月06日発行) P.116

千葉 滋 (筑波大学医学医療系教授、大学院人間総合科学研究科・医学系専攻担当副研究科長)

登録日: 2018-01-07

最終更新日: 2017-12-21

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12月初旬の米国アトランタは雪景色だった。当地では、相当の一流ホテルでもトイレ便座に暖房はなく、うっかり座ると不意を衝かれて冷感波が頭上に駆け上る。もちろん、温水洗浄機能の類はまったく期待できない。日本ではホテルや商業施設は言うに及ばず、空港や駅等の公共施設でも標準設備になっているのに。一般家庭での温水洗浄便座普及率は平成26年に64%(総務省)〜69%(日本レストルーム工業会:JSEIA)で、平成28年には約80%に達した(JSEIA)。

統計の出処は不確かだが、温水洗浄機能を積極的に利用する日本人の割合は1/4で、単に利用者という定義だと2/3だとか。私は衛生に寄与すると感じていて積極利用派である。以下はその視点による。「ビデ」機能のことはわからないから触れない。利用者割合は私の予想より低い。ちなみに非利用者は、不要派(従来法で十分)と嫌悪派(衛生懸念)に分類されそうである。もっとも、自宅/ホテル/職場/公共施設のどこかなどでも、あるいは個人の状況でも、使用実態は変わるだろう。

日本を訪れる外国人旅行者は、2017年に優に2500万人を超え、3000万人も視野に入る。彼らが日本を旅行中に温水洗浄機能を使いこなしている割合は、ひどく低いだろう。大多数は体験しない、と推察する。しかし、体験者が増え、多数が積極的利用願望を持ったら、どうなるか。文化的相違を乗り越え、もっぱら日本企業から温水洗浄便座を輸入し、自国でホテルや住居に設備しようと商機を窺ったり、あるいは購買行動に繋がったりするのではないか。

漫画やアニメ文化の輸出は経済に貢献しているとのこと。日本企業はトイレ文化の普及に力を注いではどうか。外国人向けの市場調査を行い、使用法や効用の多言語によるわかりやすい解説、衛生懸念を払拭するハード・ソフトの構築に努め、積極的にアドバタイズしては。世界中の何十%かのホテルや商業・公共施設、数億戸の家庭のトイレへの温水洗浄(もちろん熱帯地域以外は暖房つき)文化輸出に成功すれば、10兆円規模のビジネスになる。それは、日本人の1/4の海外旅行・出張を充実させることにもなる。

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