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胃部分切除患者のピロリ菌除菌

No.4689 (2014年03月08日発行) P.52

井上和彦 (川崎医科大学総合臨床医学教室准教授)

登録日: 2014-03-08

最終更新日: 2017-09-06

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【Q】

2008年に胃の2/3を切除し,2013年11月,血清ピロリ菌抗体価9U/mLであった。この患者の除菌療法の必要性の有無について。胃部分切除の経験があり,かつピロリ菌除菌をしていない患者の一般的な抗体価を併せて。(兵庫県 T)

【A】

胃部分切除後の血清ピロリ菌抗体陰性高値例は,感染が持続しているかどうか判定が難しい。内視鏡を行い,現在の感染状況を判定すべきであり,陽性の場合は,除菌治療も勧められる

胃部分切除を行う原因疾患は胃癌や消化性潰瘍が大部分であり,もともとはピロリ菌に感染していた可能性が高いと思われる。胃全摘をすれば当然ピロリ菌は排除される。しかし,胃部分切除の場合は,手術そのものの影響や周術期に用いた抗菌薬の影響で偶然に除菌される場合もあるが,残胃内にピロリ菌が残存することが多い。

簡便な血液検査である血清ピロリ菌抗体価検査はスクリーニングなどにおいて有用である。胃部分切除後においては,ピロリ菌が残存していれば,抗体価の変動はあるかもしれないが,ほとんどが陽性のままであろう。偶然除菌などでピロリ菌が消失したならば,時間とともに低下し陰性化すると考えられるが,その時間的推移は個々に異なる。

さらに,血清ピロリ菌抗体価を測定するキットは1つではなく,用いるキットによっても異なる。

質問には血清ピロリ菌抗体価が9U/mLと記載されているが,わが国で最も多く用いられているEプレート‘栄研’H.ピロリ抗体で測定されたものとして議論を進める。このキットでのカットオフ値は10U/mLであるから,陰性の判定となるが,当然偽陰性の可能性もあり,実際に残胃内にピロリ菌が存在しているかどうかを判定しなければならない。

質問の症例においても部分切除後の残胃のサーベイランスを行い,ピロリ菌が感染持続している状態か否かを判定すべきと考える。2013年2月に保険適用拡大されたピロリ菌診療は,制度上は部分切除後の胃においても内視鏡検査で胃炎を確認すれば保険適用が認められるであろう。内視鏡を行い,残胃内にびまん性発赤や斑状発赤などの所見があれば,迅速ウレアーゼ試験や鏡検法,あるいは培養法でピロリ菌の感染診断を行うべきと考える。そして,陽性確認後は,除菌治療を提示すべきであろう。その際,除菌治療のメリットのみならず,デメリットや限界も含め,十分なインフォームドコンセントが必要なことは,残胃であろうとなかろうと変わりはない。

除菌成否の判定は,尿素呼気試験では内服した13C–尿素が残胃内に十分滞留せず,偽陰性になる可能性も危惧され,便中抗原の利用を重視すべきかもしれない。また,通常は除菌判定に点の診断である鏡検法や,迅速ウレアーゼ試験などの生検組織を用いた方法は不向きとされているが,残胃においてはそれらを含め複数の方法で確認すべきであろう。その際,除菌治療により好中球浸潤やリンパ球浸潤といった組織学的胃炎所見が改善していることも確認すべきと考える。

早期胃癌内視鏡治療後については,除菌治療による異時性胃癌の発生予防が報告され,既に2010年に保険適用とされている。胃癌は多発する傾向があり,胃癌に対する部分切除後の残胃も胃癌発生リスクが残っていると考えられ,除菌治療により少しでも胃癌発生リスクを減らすことにはメリットがあると思われる。

しかしながら,胃部分切除後における除菌治療により,残胃癌発生を抑制したという報告はない。

残胃炎を改善することで残胃内での胃潰瘍発生が抑制されることが予想されるが,これについても明確な成績が示されているわけではない。また,吻合部潰瘍については,除菌成功後も再発を繰り返し,プロトンポンプ阻害薬の継続投与を余儀なくされる症例もある。

以上のように,胃部分切除後に対する除菌治療効果に関する研究はあまり行われていないのが現状である。また,プロトンポンプ阻害薬などの薬剤治療や内視鏡的止血術の進歩などにより,消化性潰瘍に対する胃切除術がきわめて少数となっている。今後,消化器内科医と消化器外科医が協力して,胃癌で外科切除した症例を対象に,除菌治療の効果を前向きに検討することが望まれる。

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