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低用量ピルによる血栓症リスク

No.4690 (2014年03月15日発行) P.60

小林隆夫 (浜松医療センター院長)

登録日: 2014-03-15

最終更新日: 2017-08-08

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【Q】

低用量ピルによる血栓症リスクについて,以下を。
(1)ヤーズのみ問題となっているのか。
(2)自由診療よりも保険適用のピルのほうが,副作用に対する保障がなされるのでよいのか。
(3)40歳以上,血栓症リスク患者には黄体ホルモンのみのミニピルを使用すべきか。
(北海道 U)

【A】

低用量ピルの有益性は大きいが,女性ホルモン剤を使用すれば頻度は低いものの血栓症を発症することがある。その初発症候に注意し,早期診断・早期治療を心がけて頂きたい

(1)ヤーズのみ問題となっているのか

ヤーズ(ドロスピレノン・エチニルエストラジオール錠)との因果関係が否定できない血栓症による死亡が最近3例報告(推定使用患者18万7000婦人年)されたことを考慮し,厚生労働省は2014年1月にヤーズの「使用上の注意」に「警告」欄を新設し,併せて医療関係者などに注意喚起するように製薬会社に指示した1)。ヤーズは海外では経口避妊薬(低用量ピル)として使用されているが,日本では避妊目的には使えず,月経困難症の治療薬として保険適用されている。

現在日本では,ヤーズ以外にもルナベルLD・ルナベルULD(ノルエチステロン・エチニルエストラジオール錠)およびディナゲスト(プロゲスチン単剤)が同様な適応で認可されているが,そのほかにも多くの類似薬剤が広く処方され,避妊のみならず月経調整,月経痛や月経過多の改善,月経前症候群の症状改善などの目的で多数の女性に使用されている。
確かにヤーズ服用者の血栓症発症率は他剤より高いとされているが,血栓症はヤーズに限ったことではない2)。厚生労働省によれば,上記薬剤を含むすべての女性ホルモン剤の服用で,2003年10月〜2014年1月10日までに13人(因果関係不明分も含む)が血栓症で死亡し,副作用が疑われる血栓症関連の症例も延べ450件ほど報告されている3)

女性ホルモン剤,特にエチニルエストラジオールには血液凝固因子産生亢進や抗凝固系に働くプロテインS産生を抑制する働きがあり,その服用により易血栓性になる。特に,服用中に水分摂取が少なかったり,体を動かさずにいると凝固しやすくなる。これはちょうど飛行機などの長時間旅行に際して起こる静脈血栓症,いわゆるエコノミークラス症候群と同様の現象である。喫煙,高年齢,肥満,高血圧などはさらにリスクを高める。

日本産科婦人科学会によれば,海外の疫学調査では低用量ピル服用者の静脈血栓症発症のリスクは,年間1万人当たり3〜9人(服用していない人は1〜5人),妊娠中では同5〜20人,分娩後12週間では同40〜65人と報告されている4)。ピルに含まれる合成ホルモンの影響と妊娠中に自然分泌されるホルモンの影響とを必ずしも同列で比較できないが,海外での低用量ピルによる静脈血栓症の発症リスクは,妊娠中や分娩後に比べて低いとされている。しかし,欧米人より血栓症発症頻度が低い日本人での実態はまだ明らかになっていないため,現在厚生労働省研究班で全国の医療機関に対し実態調査中である。

低用量ピルをはじめとする女性ホルモン剤の有益性は大きく,女性のQOL向上にきわめて効果的である。ヤーズに限らず女性ホルモン剤を使用すれば,頻度は低いものの血栓症を発症することがあり,いったん発症すると重篤化するケースもあるので,服用中に血栓症に起因すると思われる症候(頭痛,胸痛,腹痛,下肢痛,舌のもつれ,視野狭窄など)がみられた場合は,直ちに服用を中止し,処方元の医療機関に連絡することが大切である。連絡があった場合は,自施設で対応する場合もあるが,その症候に応じて循環器内科,血管外科,脳神経外科などの専門医に診断・治療を依頼して頂きたい。何事も早期診断・早期治療が大切である5)

(2)自由診療よりも保険適用のピルのほうが,副作用に対する保障がなされるのでよいのか

医薬品副作用被害救済制度は,医薬品を適正に使用したにもかかわらず発生した副作用による健康被害者に対して各種の副作用救済給付を行い,被害者の迅速な救済を図ることを目的とし,医薬品医療機器総合機構法に基づく公的制度として設けられた6)

「適正な使用」とは,原則的には医薬品の容器あるいは添付文書に記載されている用法・用量および使用上の注意にしたがって使用されることが基本となる。ここでいう医薬品とは厚生労働大臣の許可を受けた医薬品で,病院・診療所で投薬された医薬品,薬局などで購入した医薬品のいずれでも救済の対象となる。

したがって,自由診療であっても「適正な使用」であれば対象となる。たとえば日本で市販されているピルを避妊目的で使用した場合は「適正な使用」となるが,適応外使用や海外から輸入した薬剤は救済の対象とはならないものと判断される。

(3)40歳以上,血栓症リスク患者には黄体ホルモンのみのミニピルを使用すべきか

エストロゲンを含まない製剤のほうが血栓症リスクは低い7)ため,血栓症高リスクの患者背景を有する女性には,プロゲスチン単剤(ディナゲスト,レボノルゲストレル放出子宮内避妊システム)の処方を検討したほうがよいかもしれない。ただし,日本では認可されていない海外から輸入したミニピル製剤では,医薬品副作用被害救済制度は適用されないことに留意する。

【文 献】

1)バイエル薬品株式会社:月経困難症治療剤ヤーズ®配合錠による血栓症について
[http://www.bayer-hv.jp/hv/files/pdf.php/140117_yaz_blue_2.pdf?id=1d34909a7f732cf268ef8a5f4b7c9952a]
 2)Lidegaard Ø, et al:BMJ. 2011;343:d6423.
 3) 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA):副作用が疑われる症例報告に関する情報
[http://www.info.pmda.go.jp/fukusayou/menu_fukusayou_attention.html]
 4) 日本産科婦人科学会:低用量ピルの副作用について心配しておられる女性へ
 [http://www.jsog.or.jp/news/html/announce_ 20131227.html]
 5) 日本産婦人科・新生児血液学会:女性ホルモン剤使用中患者の血栓症に対する注意喚起
 [http://www.jsognh.jp/common/files/society/hormone.pdf]
 6) 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA):医薬品副作用被害救済制度に関するQ&A
[http://www.pmda.go.jp/kenkouhigai/help/qanda.html]
 7) Mantha S, et al:BMJ. 2012;345:e4944.

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