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低体温症─痛い思いから知った危ない瞬間 [プラタナス]

No.4844 (2017年02月25日発行) P.1

大城和恵 (北海道大野記念病院循環器内科・山岳登山外来)

登録日: 2017-02-24

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  • 私は、病院勤務と山の医療と登山の3つをライフワークとしている。富士山8合目にある衛生センター(標高3250m)で診療していた時の出来事である。

    8月下旬の雨の日、午前9時半、40代半ばの父親が「朝5時半から子どもの調子が悪くて……」と駆け込むように子どもを連れてやってきた。親子は雨でずぶぬれであった。標高3250mというと、天気が悪い日は最高気温が10℃ほどしかない。10歳に満たないその子はガタガタ震え、口唇はチアノーゼ、SpO2は80%であった。行動は緩慢だが意識は正常であった。子どものザックから出した着替えはすべて濡れていた。朝から食欲もなかったそうである。

    まず濡れた服を全部脱いでもらった。「パンツも脱ぐんだよ!」と、毛布でくるみ、湯たんぽを作って胸にあててあげた。高所で子どもの具合が悪くなると、酸素投与を考えるが、これまで劇的な効果を挙げてきたのが「湯たんぽ」である。酸素が少ない上、高所のため食欲がわかず、エネルギーも消耗して体が温まらないのだ。「湯たんぽ」はストーブなどで暖をとるより“伝導”で熱を加えるため効果的である。子どもに笑顔が戻った。父親は「9合目にある自分のザックをとりに行く」と言うので、「行けるほどお父さんも元気はないのでやめましょう」と話した。父親は我に返り、思ったより消耗している自分にようやく気づき、ザックを諦めた。子どもの横で父親も裸になり、毛布にくるまった。

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