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(3)IBDに対する糞便微生物移植法(FMT)の臨床応用 [特集:打つ手あり! IBD治療の展望]

No.4839 (2017年01月21日発行) P.42

水野慎大 (慶應義塾大学医学部内科学(消化器))

金井隆典 (慶應義塾大学医学部内科学(消化器)教授)

登録日: 2017-01-20

最終更新日: 2017-01-19

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  • 炎症性腸疾患(IBD)患者では腸内細菌叢の攪乱が生じている。ここを是正するための試みとして糞便微生物移植法(FMT)が期待されている

    FMTは再発を繰り返すClostridium difficile感染症の治療において既存治療を大きく上回る有効性を示した

    IBD治療でのFMTの有効性については,わが国・欧米を含めいまだに結論が出ていない

    FMTは消化管疾患以外への治療効果も期待され,臨床応用に向けた検討が進んでいる

    1. FMTの歴史

    糞便微生物移植法(fecal microbiota transplantation:FMT)は「便移植」とも表現され,糞便を他者に移植する治療法であるが,多様性に富んだ腸内細菌に加えて代謝産物も含む良好な腸内環境を他者に移植することが本質である。わが国では昨今の腸内フローラブームに乗って急に注目されるようになった印象も受けるが,1700年以上前の古代中国で健常人の便汁を患者に服用させたことに始まる歴史の長い治療法である。近代医学でも60年前に偽膜性腸炎患者にFMTを施行したことが報告1)されているが,その後は症例報告が散見される程度で広く普及するには至らなかった。
    しかし,後述するようにC. difficile感染症に対して既存治療を大きく上回る有効性を示したことから,2010年代に入って,急速に各種疾患への応用の試みが進行している。代表的な難治性腸疾患である炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease:IBD)に対するFMTもその一環として行われている。 

    2. IBD患者の腸内細菌叢

    FMTの将来の展望を語る上で,近年の腸内細菌の解析技術の急速な進歩を抜きにすることはできない。腸内細菌学の歴史は,1681年頃にオランダ人のLeeuwenhoekが糞便を顕微鏡で観察して腸内細菌の存在を発見したことに始まり,1800年代にKöchやPastureが純粋培養法を確立し,わが国でも1960年頃に光岡知足が腸内細菌の分離培養技術を確立した。しかし,常に難培養菌の存在が立ちはだかり,腸内細菌叢の全容解明には至らなかった。
    ここに,16S rRNA配列をもとにしたメタゲノム解析技術の開発が風穴を開けた。サンガー法を用いたキャピラリー式シーケンサーでは遺伝子組み換え工程の煩雑さや,解析に要する時間などによって解析量には限界があったが,一度に大量の配列を同時並行で解析できる次世代シーケンサーの開発により,煩雑さと時間の課題が同時に解消された。これによって,2000~10年頃に急速に腸内細菌叢の全体像の解明が進み,これらの研究結果が,Nature,Cell,Scienceというトップジャーナルに続けざまに発表された。さらに,これらを基に臨床研究につなげた報告がThe New England Journal of MedicineやLancetといった臨床系雑誌にも発表されたことで,腸内細菌叢を取り巻く環境は急激に変化しはじめた。
    これに伴って,IBD患者の腸内細菌叢の全体像も明らかになってきた。IBD患者は,健常者と比してFirmicutes門とBacteroides門の減少が報告されており,中でもFirmicutes門に属するClostridium属clusterⅣ/ⅩⅣaが減少していることが知られている。このことから,健常人と比して腸内細菌叢の構成パターンが変化していることが,IBDの病態と関わっていることを示唆される。また,クローン病(Crohn’s disease:CD)患者ではClostridium属clusterⅣに分類されるFaecalibacterium prausnitziiが減少していることが報告されている。ただ,特定の腸内細菌の増減が炎症の原因であるという決定的な証拠はなく,特定の菌種と病態との関わりについてはさらなる検討が必要とされる。
    IBDの病態についてはいまだに明らかになっていない点も多いが,患者個人の遺伝学的素因,食事・衛生環境などの環境因子に加えて,腸内細菌と宿主との間の異常な免疫応答も含む多因子によって発症すると考えられており,前述のような腸内細菌叢の変化が腸炎発症に関与している可能性が示唆されている。

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