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ハイボリュームセンターの利点 [炉辺閑話]

No.4837 (2017年01月07日発行) P.18

山口俊晴 (公益財団法人がん研究会有明病院病院長)

登録日: 2017-01-01

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がん研有明病院外科の症例数がぐんぐん増加してきたころ、①数ばかり多くても駄目だ、②質や安全性にも問題が出てくる、③創造的な医療をめざすべきだ、などの批判が起こってきた。内心は見当違いも甚だしいと思いつつ、症例の集積に注力してきた。大塚から有明に移転した2005年には、食道手術57例、胃手術392例、大腸手術221例、肝胆膵手術260例であったが、2015年には食道手術112例、胃手術700例、大腸手術1088例、肝胆膵手術547例に達した。

この間に腹腔鏡手術の導入が急速に進められ、輸血は激減し、術後合併症も減少した。その結果、術後在院期間は著明に短縮した。術後在院死亡も2015年は3例(0.012%)に過ぎない。質が向上して安全性が高まった要因は、①手術数が増えて技術力が向上した、②優れた執刀医のもとに優れたレジデントが集まった、③執刀医同士で切磋琢磨が行われた、ことにあると考えている。

医療の内容についてみると、食道グループは開胸開腹手術から、胸腔鏡手術に大きくシフトし、在院期間の短縮と呼吸器合併症の減少が達成された。胃外科では、内視鏡グループと共同で手術を行う、LECSという新しい概念の手術を開発し、保険収載にこぎ着けた。大腸グループは90%の手術が腹腔鏡手術になり、腫瘍内科医や放射線治療医とともに集学的な治療が実践されている。

肝胆膵では、大腸癌肝転移症例の増加に対応し、積極的切除を行い、大腸癌の手術成績向上に寄与している。肝胆膵外科の領域でも腹腔鏡手術は徐々に導入され、蛍光による病巣の認知システムなど、次世代の医療技術も開発中である。

つまり、「数ばかり多くても駄目」なのではなく、「数が少なくては駄目」なのである。また、手術症例数の増加は病院の経営改善に大きく寄与するし、その余裕が医療従事者の待遇改善や、新しい機器の導入にもつながっている。そもそも、日本は1施設当たりの手術件数が、諸外国に比べても少なすぎる。外科医にもっと集中的に仕事をさせることが、医療の効率化と、外科医の幸せにつながるものだと確信している。ただし、症例数を増やすのは容易なことではない。症例数は、紹介医と患者さんからの病院の評価の結果だからである。

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