【質問者】
塩谷昭子 川崎医科大学消化管内科学教授
胃体部粘膜の壁細胞はpH 1~2の塩酸を産生し,主細胞から産生される酸性条件下でのみ蛋白分解酵素活性を示すペプシンと相まって,食材に含まれる蛋白成分の消化,病原微生物の殺菌を行っています。胃内の酸度や蛋白質の存在を前庭部のG細胞が感知して,ガストリンの分泌量を調整しているのです。胃酸分泌が低下すると,ガストリンの分泌量は増加します。ガストリンは壁細胞に作用して胃酸分泌を促進するだけでなく,ECL細胞を中心として胃粘膜の増殖も促進することが知られています。強力な胃酸分泌抑制薬であるPPIやP-CABの投薬を行うと,胃酸が発症要因となっているLDAやNSAIDsの使用に伴う上部消化管粘膜傷害の発症リスクを減らすことができます。ところが,同時に胃内での蛋白質の消化や殺菌作用が低下するとともに,胃内での蛋白消化によって遊離され内因子と結合することが吸収の第一ステップであるビタミンB12の吸収が低下したり,十二指腸,上部小腸からの鉄やカルシウムの吸収が低下することが懸念されます。実際,PPIの長期投薬を受けた患者と受けていない患者の各種疾患の発症リスクを比較した後ろ向きコホート研究が多数発表され,長期の胃酸分泌抑制によって,腸管感染症,肺炎,腸内細菌叢の変化によると思われる小腸粘膜傷害,貧血などが増加する可能性が報告されています。また,胃酸は内服した薬剤の溶解度や分解・吸収に大きな影響を持つため,胃酸分泌抑制は経口薬のbioavailabilityを変えたり,高ガストリン血症を起こして胃カルチノイド腫瘍の発症リスクを高めるのではないかと心配する意見もあります。
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