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わが国におけるドクターカーの現状および今後の課題と展望 【消防本部との連携,乗務医師の資質,コストなどの課題があるものの全国的展開が望ましい】

No.4817 (2016年08月20日発行) P.61

林 靖之 (大阪府済生会千里病院千里救命救急センター センター長)

登録日: 2016-08-20

最終更新日: 2016-10-30

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【Q】

わが国のドクターカーは地域ごとにいろいろな形態で発展してきたと思います。その中で,全国でも屈指のドクターカー運用実績をもとに,今後のわが国におけるドクターカーについて,課題も含めその将来展望をご教示下さい。
大阪府済生会千里病院・林 靖之先生にご回答をお願いします。
【質問者】
荻野隆光:川崎医科大学救急医学教授

【A】

ドクターカーは,文字通り医師が乗務して現場に出動する緊急車両であり,既に多くの地域で稼働していますが,ドクターカーが積極的に現場出動するためには,いくつかの解決すべき課題があります。
(1)消防本部との連携
ドクターカーの出動要請は消防本部から行われますが,迅速な要請のためには119番通報時点で通信指令員にドクターカー要請の適否を判断してもらわなければなりません。そのため,医学知識が十分でない通信指令員でも迅速なドクターカー出動要請を実施できるように,キーワード方式によるドクターカー要請システムを取り入れたり,結果的に軽症であってもかまわないというオーバートリアージを許容することが重要です。
(2)乗務医師の資質
救急現場は病院の診察室とは状況が異なりますので,ドクターカー乗務医師に求められる資質としては,その特殊性を十分理解していることがまず必要です。そして,その特殊状況下で傷病者の重症度,緊急度を的確に判断し,必要な処置を適切なタイミングで的確に実施できる能力が必要とされます。また,一緒に活動する看護師や救急救命士などを管理できる能力も必要となります。
(3)経済的問題
コスト面で特に問題となるのは,毎年の維持費です。当センターでは運転手の確保や車両の保守点検については外部機関に委託しており,その委託契約費は年間2000万円強となります。そのため地域によっては,ワークステーション方式と言って救急出張所を医療施設内に設置し,そこに設置された救急車に救急医が乗り込む方式を取り入れたり,乗用車タイプの緊急車両を使用したりして運用コストを抑えています。
(4)将来展望
医師が現場に赴くということは,現場から医療行為を開始できることを意味し,ドクターカーの存在意義として非常に重要ですが,現場に医師が存在する意義はそれだけではありません。ドクターカーの積極的な運用ができているということは,実際の現場に精通したプレホスピタルケアに理解がある医師が多く存在することを意味し,それが救急隊員活動の事後検証や教育にも生かされ,結果的には救急隊員のパフォーマンスの向上,すなわちメディカルコントロールの質の向上につながります。
このようにドクターカーは,傷病者の救命率向上を目的とした病院前救急医療を実践するために非常に有用であるのはもちろんのこと,メディカルコントロールの質の向上においても有用であり,いくつかの解決すべき課題は存在するものの,このシステムが全国的にさらに展開されることが望ましいと思います。

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