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無診察の紹介状作成は違法となる?

No.4813 (2016年07月23日発行) P.62

大磯義一郎 (浜松医科大学総合人間科学講座教授)

登録日: 2016-07-23

最終更新日: 2016-12-19

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【Q】

定期健康診断で要治療と診断され,より大規模な病院へ紹介する場合,定期健康診断の検査結果を以て診療情報提供書(紹介状)を作成し,患者診察(問診および理学的検査等)を省略することは可能ですか。無診察の紹介状作成についてご教示下さい。 (岐阜県 K)

【A】

医師法第20条は,「医師は,自ら診察しないで治療をし,若しくは診断書若しくは処方せんを交付し,自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書を交付し,又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない。但し,診療中の患者が受診後二十四時間以内に死亡した場合に交付する死亡診断書については,この限りでない」と定めています。そして,本条に違反した場合には,50万円以下の罰金刑に処せられることとなっています(同法33条の2第1号)。
本条の要件である「診察」の定義は,「問診,視診,触診,聴診その他手段の如何を問わないが,現代医学から見て,疾病に対して一応の診断を下し得る程度のもの」を言います(各都道府県知事あて厚生省健康政策局長通知 平成9年12月24日 健政発第1075号)。そして,同通知は,「直接の対面診療による場合と同等ではないにしてもこれに代替し得る程度の患者の心身の状況に関する有用な情報が得られる場合には,遠隔診療を行うことは直ちに医師法第20条等に抵触するものではない」として,遠隔診療に対し,一定の理解を示していました。しかし近年,電子メールやSNS等の文字および写真のみによって得られる情報により診察を行い,対面診療を行わず遠隔診療だけで診察を完結させることを想定した事業が出てきたことを受け,そのような診療は「直接の対面診療に代替しうる程度の患者の心身の状況に関する有用な情報が得られないと考えられる」(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医政局医事課長通知 平成28年3月18日 医政医発0318第6号)とし,対面診療の原則が強調されています。
したがって,本質問のように検査結果のみで直接の対面診療を行っていない場合には,「診療」には該当しない可能性が高いと考えられます。
一方,医師法第20条が無診察で行うことを禁止しているのは,(1)治療,(2)診断書の交付,および(3)処方箋の交付,の3つの行為です。そこで,診療情報提供書(紹介状)が診断書に含まれるかが問題となります。
先に示したように医師法第20条は刑罰法規となっていますので,刑罰法規一般に適用される憲法上の各種ルールは当然,適用されます。刑罰法規においては,どこからどこまでの行為が違法で,それに対してどのような刑罰が下されるのかについては,法律によってあらかじめ明確な定義が必要という原則(罪刑法定主義)があります(憲法第31条)。このため,条文から類推解釈して,刑罰が適用される範囲を広げるようなことは許されないのです。したがって,本質問で問題となっている診療情報提供書と診断書では,その目的や記載内容等が異なる別の文書ですから,診療情報提供書の交付行為は医師法第20条が禁止する行為には該当しないと考えられます。
以上から,「定期健康診断の検査結果を以て診療情報提供書(紹介状)を作成し,患者診察(問診および理学的検査等)を省略する」ことは,無診察に該当するものと考えられますが,「診療情報提供書(紹介状)を作成」することは,医師法第20条が禁止していないことから,同法違反を問われる可能性は低いものと考えられます。ただ,無診察で紹介状を作成・交付することは,医師の職業倫理上好ましいこととは言えませんので,同法違反を問われる可能性が低いからといって,推奨されるものではないということはご理解頂けたらと考えます。

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