質量分析装置とは,2002年に島津製作所の田中耕一氏がノーベル化学賞を受賞した技術を用いて開発された機器で,蛋白質をイオン化し分離することにより,検体中の微量な蛋白質の性状を解析することができる。それを応用して,細菌を簡易な前処理の後イオン化し,分離パターンにより微生物の同定を行う機器が臨床の現場に導入されてきている。この装置の導入で,より迅速な細菌の同定が現実のものとなってきた。
従来の細菌検査では,検体のグラム染色を行い,培養により細菌のコロニーを得て,それに対して様々な検査を行うことにより同定を行っている。一連の検査に培養の過程が必要なため,菌種が判明するまで2~3日は必要となり,緊急を要する敗血症などの診断には,より迅速な検査結果が望まれていた。
質量分析装置を用いることにより,速やかに菌種を決定することができるため,血液培養であれば検査翌日には菌名を決定でき,施設ごとの薬剤感受性を集積したアンチバイオグラムに基づき,適切な抗菌薬の投与が可能となっている(文献1)。
しかし,質量分析装置が導入された場合でも,適切なコロニー選択や薬剤感受性などを自動化することは不可能である。常に細菌検査に携わっている臨床検査技師は,細菌に関する知識の宝庫であり,医師は臨床検査技師とディスカッションを欠かさぬ姿勢を持ち続けることが大切である。
1) 大楠清文:Mod Media. 2012;58(4):113-22.