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精神病発症危険状態(ARMS)

No.4774 (2015年10月24日発行) P.53

岸本年史 (奈良県立医科大学精神医学教授)

登録日: 2015-10-24

最終更新日: 2016-10-26

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精神病の多くは青年期までに発症することが多く,早期介入の必要性が認識されている。精神病を発症してから適切な治療が開始されるまでの期間(精神病未治療期間,duration of untreated psychosis:DUP)の長いことが,治療反応性やその後の社会機能の不良と関連するので,DUPを短縮することが予後の改善につながるとされている。ARMS(at risk mental state)はさらに発症以前からの予防的介入についての概念である。
統合失調症の早期症状・前駆症状は古くから知られているが,そのような臨床的ハイリスク状態をARMSと呼ぶことが多い。これは精神病発症リスクが高い状態のことで,この概念は精神病前駆期に相当するが「前駆状態」は後方視的な視点によるものであり,また発症への移行を前提とする用語である。ARMSは発症リスクが高い状態で,必ずしも移行するものではない。最近のメタ解析でも移行率は6カ月で18%,3年で36%と報告されている。ARMSは,(1)閾値以下の弱い精神病症状,(2)一過性で自然軽快する精神病症状,(3)遺伝的素因に機能低下を伴う,のいずれかの前駆症状を示す場合で,UHR(ultra high risk)とも呼ばれる。
ARMSでは,精神病への移行は前提とされておらず,抗精神病薬治療は第一選択とはならない。微弱な精神病症状以外に抑うつや不安など,様々な現実的問題を抱えていることが多く,心理的治療の役割が大きい。認知行動療法の有効性の報告もあるが,治療者が積極的な関心を示しつつ,必要に応じて問題解決に関与する一般的な関わりでも治療効果は期待できる。また,魚油であるω-3不飽和脂肪酸の有効性も報告されている。

【参考】

▼ 水野雅文, 他:精神医. 2015;57(2):89-103.

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