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日本人の先天性縮毛症/乏毛症患者とLIPH変異

No.4759 (2015年07月11日発行) P.52

棚橋華奈 (名古屋大学皮膚科)

秋山真志 (名古屋大学皮膚科教授)

登録日: 2015-07-11

最終更新日: 2016-10-26

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先天性縮毛症/乏毛症(以下,縮乏毛症)は,生後間もない頃より,短く細く縮れた毛髪と乏毛を認める疾患である。乏毛の程度はごく軽度から無毛に至る重症例まで様々で,その毛髪異常のために患者のQOLは著しく低下することが多い(文献1)。
近年,日本人における常染色体劣性縮乏毛症の多くがLIPH遺伝子の変異によるものであることが報告され,さらにその変異の大部分はc.736T>A(p.C246S)とc.742C>A(p.H248N)の2種類の変異のうち,どちらかのホモ接合型か,両変異のヘテロ接合型であることが判明した(文献1,2)。
LIPHの遺伝子産物はphosphatidic acid-selective phospholipase A1α(PA-PLA1α),別名リパーゼHと呼ばれる酵素であり,毛髪においては毛包内毛根鞘に発現し,ホスファチジン酸を分解して活性型の脂質であるリゾホスファチジン酸(LPA)を合成する。LPAは,毛包の分化や毛髪の成長に関与するシグナル経路において重要な役割を持つことが示唆されている(文献2)。LIPHの変異により,PA-PLA1αの酵素活性が低下しLPAが不足した結果,毛の脆弱化や成長障害,毛包形成異常などが起こり,本症を発症すると考えられる(文献2)。
筆者らの研究では,日本人健常者における2変異の保因者率はc.736T>Aは1.70%,c.742C>Aは0.32%で,全人口の約2%が病因変異の保因者であることになる(文献1,2)。日本人には少なくともこの2変異で約1万人の患者がいると推測され,稀な疾患ではないことが明らかになってきた。

【文献】


1) Tanahashi K, et al:PLoS One. 2014;9(2):e89261.
2) Shinkuma S, et al:Hum Mutat. 2010;31(5):602-10.

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