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進行性核上性麻痺患者の水頭症

No.4715 (2014年09月06日発行) P.61

森 敏 (滋賀県立大学人間看護学部人間看護学科教授)

登録日: 2014-09-06

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

歩行障害,姿勢反射障害などが主徴である進行性核上性麻痺(progressive supranuclear palsy:PSP)の患者さんで,頭部画像検査を実施すると,中脳被蓋の萎縮などPSPの所見と併せ,水頭症様の所見を呈していることがあります。正常圧水頭症(normal pressure hy-drocephalus:NPH)の合併も否定できず,髄液排除試験を実施することで歩行状態に若干の改善がみられ,その後しばらく維持され,以後,試験前の程度に復します。
効果は限定的ではありますが,NPHの画像所見としては典型的でなく,歩行障害はPSPによるものとして矛盾しない場合も,シャント術の適応になるのでしょうか。原疾患に対してほかに有効な治療法もなく,できることがあれば試みたいという患者さんや家族の希望もありますが,いかがでしょうか。滋賀県立大学・森 敏先生にご回答をお願いします。
【質問者】
伊藤 聖:三次神経内科クリニック花の里院長

【A】

[1]iNPHとPSP/CBDが高率に共存 PSP/CBD(corticobasal degeneration:大脳皮質基底核変性症)患者は,特発性正常圧水頭症(idiopathic normal pressure hydrocephalus:iNPH)に特徴的な画像所見(脳室拡大,円蓋部くも膜下腔狭小化,シルビウス裂開大)を高率に呈します(約30%)。これらの症例には,髄液排除試験陽性/シャント術有効例も多く,iNPHと同様の病態を伴っていると考えられます。
[2]NPHの剖検例は大半がPSP
一方,NPH症例の検討からも,PSPとの関連が指摘されています。2013年に,英国のQueen Square Brain Bankから,NPHの剖検報告がなされました(文献1)。それによると,生前に脳外科医によりNPHと診断されシャント術が有効であった症例は大半がPSPでした。このことはPSPがNPHの主たる原因疾患(primary disease)であることを示しています。
[3]PSPに対しても一時的であるがシャント術が有効
ご質問のPSP患者に対するシャント術の効果については,症例報告が散見されます(文献2,3)。それによると,円蓋部くも膜下腔狭小化が認められる例のみならず,それが明らかでない例においても,一時的に改善がみられたとされています。このようにPSPがシャント反応性を持つことは,本症が髄液循環障害を伴い,部分症としてiNPHを呈しうることを示しています。
[4]シャント術を実施する場合
[1]~[3]を考え合わせると,「PSPはiNPHの主たる原因疾患であり,部分症としてiNPHを呈する」と考えられます。
ご質問は,「水頭症様の画像所見を呈しているPSP患者に髄液排除試験を実施したところ,歩行障害が若干改善した。しかし,画像的にはNPHの典型例とは言いがたい。このような場合,どう対応すればよいか」ということだと思います。髄液排除試験により一時的に症状の改善がみられ,その後,元の状態に復していることから,シャント術の効果が期待できると考えます。
患者さんとご家族に対しては,(1)基盤にPSPという神経難病が存在しており徐々に進行すること,(2)シャント術には一定の効果が期待できるものの,永続的なものではないことを説明し,その上で手術を希望された場合は実施すればよいと考えます。

【文献】


1) Magdalinou NK, et al:J Neurol. 2013;260(4): 1009-13.
2) Schott JM, et al:Mov Disord. 2007;22(6):902-3.
3) Morariu MA:Neurology. 1979;29(11):1544-6.

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