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在宅中心静脈栄養児における脂肪製剤投与法

No.4697 (2014年05月03日発行) P.63

増本幸二 (筑波大学医学医療系小児外科教授)

登録日: 2014-05-03

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

小児期は成人と比較して脂肪摂取の必要性が高いと言われていますが,短腸症候群やヒルシュスプルング病類縁疾患などで,栄養のほとんどを静脈から摂っている患児について,脂肪投与に困ることがあります。在宅中心静脈栄養に用いる輸液回路にはフィルターがついており脂肪が通らないため,在宅投与ができません。
そこで,定期的に外来あるいは入院で投与せざるをえませんが,どの方法を推奨されますか。また,血液検査での脂肪充足の指標は何を用いればよいでしょうか。筑波大学・増本幸二先生に。
【質問】
北河徳彦:神奈川県立こども医療センター外科医長

【A】

小児期において脂肪は非常に重要な栄養素です。日本の食事摂取基準で脂肪エネルギー比率は生後0~5カ月で50%,6~11カ月で40%,それ以降の小児で20%以上30%未満とされ,脂肪摂取が小児期に重要であることがわかります。
静脈栄養の場合には,過剰な糖質投与を防ぎ,必須脂肪酸欠乏を予防するということも含めて投与を行うことになります。通常の静脈栄養における脂肪投与量は,欧州小児栄養消化器肝臓学会(ESPGHAN)のガイドライン(文献1)では,非蛋白エネルギーの25~40%を脂肪で投与することが推奨されており,日本静脈経腸栄養学会(JSPEN)のガイドライン(文献2)においても同様の投与が示されています。具体的な投与量は,最大量2~3g/kg/日程度であり,24時間投与が原則とされています。
しかし,栄養管理として,在宅静脈栄養のみを行っている児の場合,ご指摘のように,使用されるルートは中心静脈であり,輸液回路はインライン・フィルター(孔径0.2μm程度)を含んでいます。そのため,投与脂肪乳剤の粒子は通ることができず,通常このフィルターを通しての投与は困難です。入院中であれば,フィルターより患者側からの側管を使用した脂肪乳剤投与も可能ですが,外来通院中の患者ではルート汚染の問題や操作性の問題などがあり,推奨できません。
したがって,脂肪乳剤は末梢静脈ルートからの投与を外来で行うことが必要となります。通常は必須脂肪酸欠乏症予防として,最低0.10g/kg/日の脂肪投与が必要とされていますが,外来での連日投与は困難なことが多いのが現実です。
そこで,私は週1~2回,外来にて末梢ルートをとり,20%脂肪乳剤を0.5g/kg/日投与することを行っています。その際,注意しているのは,投与速度です。
投与された脂肪乳剤の粒子は血中でリポ蛋白化された後,リポ蛋白リパーゼにより,脂肪酸とグリセオールに加水分解されます(文献3)。この代謝能力を超える速度での投与では,脂肪粒子は異物として網内系に貪食を受け,栄養素として利用されないことになるからです。この代謝速度は小児では0.1g/kg/時程度です。そのため,約4~6時間かけての投与を行うことになります。
一方,経腸栄養を少量併用されており,脂肪吸収が阻害されていない場合は,脂肪乳剤の積極的な経腸投与を行っています。20%脂肪乳剤を経口もしくは経腸ルートから,脂肪投与量にして1~2g/kg/日を1日3回程度にわけてボーラス投与しています。この経腸投与は数時間かけた持続投与を行っている施設もあります(文献4)。
このような外来での脂肪投与を行った場合,脂肪の充足状態を確認する補助検査としては,通常は血中コレステロールと中性脂肪の値を参考にしています。特に血中の中性脂肪値を投与量の過不足を大まかに判定する際に使用して,40~150mg/ dL程度を適切とし,250mg/dLを超える場合,投与量を減量することとしています。また3カ月に1回の割合で全脂質中脂肪酸分析を行い,Trien/Tetraene比などをもとに必須脂肪酸欠乏状態の有無を確認し,投与量調節に役立てています。

【文献】


1) Koletzko B, et al:J Pediatr Gastroenterol Nutr. 2005;41(Suppl 2):S1-87.
2) 日本静脈経腸栄養学会 編:静脈経腸栄養ガイドライン 第3版. 照林社, 2013.
3) 土岐 彰, 他 編:小児の静脈栄養マニュアル. メジカルビュー社, 2013, p22-31.
4) 千葉正博, 他:外科と代謝・栄養. 2009;43(5):95-103.

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