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脂質異常症へのスタチン投与後の副作用の頻度は?

No.4807 (2016年06月11日発行) P.62

及川眞一 (結核予防会複十字病院糖尿病科長/ 生活習慣病センター長)

登録日: 2016-06-11

最終更新日: 2016-12-15

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【Q】

脂質異常症患者にスタチンなどを投与する機会が増えていますが,肝機能異常値や脱毛など副作用の訴えが多いように感じます。脂質異常症に対する薬剤の副作用は,実際どのように理解し,説明しておく必要があるのでしょうか。副作用の頻度は増加していないのでしょうか。
(神奈川県 Y)

【A】

副作用の頻度が高くなってきたということは報告されていません。副作用として重篤な腎障害には注意が必要ですが,一般的にスタチンによる副作用が他剤と比して多いということは認められません。以下の対応点を理解して診療して頂きたいと思います。
(1)禁忌
スタチンは妊婦に対する投与は禁忌です。特に,家族性高コレステロール血症(FH)女性の治療中に問題となります。服用している間に妊娠した例では,催奇形性が考えられるため(文献1),直ちに投与を中止します。たとえ妊娠初期3カ月を過ぎて服用している例でも,休止します。このような場合,妊娠維持を中止するかどうかは本人や家族との話し合いで考えます。また,授乳中のスタチン投与も禁忌です。スタチンが母乳から乳児に移行すると考えられるためです。冠動脈疾患を有する例で,積極的なコレステロール低下療法が求められる例でも,妊娠・授乳中のスタチン投与は禁忌です。
(2)スタチン全般の重大な副作用
横紋筋融解症,ミオパチー,肝障害,血小板減少症,末梢神経障害,過敏症状,間質性肺炎などが挙げられます。このような病態の出現は投与直後から数カ月後まで,幅広く認められ,投与期間の長さには依存しません。どれほどの期間,副作用が出現しなければ安全である,といった点についての定説はありません。個人的には(根拠はあまりありませんが)少なくとも,投与後1年間は副作用の出現を考慮して,経過を観察することが必要と考えています。
自覚症状として消化器症状(胃部不快感,嘔気,便秘など)などが挙げられます。また,検査値異常として肝機能異常,発疹,CK上昇などが指摘されています。スタチンに特異的なものはなく,一般的な薬剤性の変化と考えられます。この中でCK上昇例が多く指摘されています。直ちに横紋筋融解症と結論づけることはできませんが,このような例では注意が必要です。また,CK値が正常でも,足がつる,筋力が低下する,といった症状を認めることがあります。休薬した上で,これらの症状の推移を観察して,薬剤との因果関係を考えることが必要です。
これらの副作用を生じやすいのは,腎機能障害を有する例です。慢性腎臓病(CKD)でも脂質異常症に対する積極的なコレステロール低下療法は必要ですが,副作用の出現に注意して観察することが重要です。このような例では特に,横紋筋融解症が問題となります。
近年の問題として高血糖の誘発,催糖尿病性が指摘されています(文献2,3)。症例報告,あるいは多数例での観察研究などが報告されています。しかし,高血糖の誘発を避けるため,スタチン投与を避けるべきである,との考えは今のところ,見当たりません。症例の必要性に応じたスタチン投与が考慮されています。スタチン投与は長期にわたって行われるので,高血糖誘発,あるいは血糖コントロールの悪化などを想定した経過観察が求められます。
以上の副作用は薬剤の血中濃度との関連性もあり,以下の併用薬との関連性にも注意することが必要です。
(3)薬剤相互作用
スタチンの種類と他剤との相互作用について『動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症治療ガイド2013年版』(文献4)と薬剤の添付文書を参考にして,表1にまとめました。長期投与例,あるいは高齢者などにおいては他剤との併用などを考慮することが求められます。


【文献】


1) Morton S, et al:Curr Opin Obstet Gynecol. 2013;25(6):433-40.
2) Sasaki J, et al:J Atheroscler Thromb. 2006;13(3):123-9.
3) Swerdlow DI, et al:Diabetologia. 2014;57(12):2433-5.
4) 日本動脈硬化学会, 編:動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症治療ガイド2013年版. 日本動脈硬化学会, 2013.

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