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正常圧水頭症に合併したパーキンソン病の診断法は?

No.4805 (2016年05月28日発行) P.64

石川正恒 (洛和会音羽病院正常圧水頭症センター所長)

登録日: 2016-05-28

最終更新日: 2021-01-05

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【Q】

正常圧水頭症(normal pressure hydrocephalus:NPH)の診断で脳外科的手術をせずに経過観察中に嚥下障害をきたして受診した患者を診察しました。既に起立困難な状態でしたが,左上肢優位の固縮と仮面様顔貌を認め,パーキンソン病(Parkinson’s disease:PD)の合併を疑いました。振戦はありませんでした。PDなら治療により多少の改善が望めるため,NPHに合併したPDを診断するポイントについてご教示下さい。
(香川県 T)

【A】

NPHは,先行疾患の明らかな二次性と原因不明の特発性に分類されます。二次性の場合には,脳神経外科で治療をされていることが多いので,本稿では特発性NPH(idiopathic normal pressure hydrocephalus:iNPH)として話を進めます。
iNPHもPDも高齢者にみられます。iNPHの歩行の特徴は,小刻み歩行・すり足歩行・すくみ足歩行・不安定歩行などですが,開脚歩行がPDとの違いに挙げられます。PDは足を広げて歩くことはないので,鑑別点としては有用です。歩行障害はiNPHの主症状であり,lower-half parkinsonismと言われることがあるように,PDとは異なり,上肢の症状はみられません。本例では,左上肢優位の固縮と仮面様顔貌を認めたとあることから,PDを合併している可能性は高いと思われます。
iNPHは高齢者の疾患であり,PD以外にもアルツハイマー型認知症や脳血管性認知症などを合併している可能性があります。iNPHでは,歩行障害が認知障害よりも先行することが多くありますが,PD発症の1年以内に認知障害が発症した場合には,レビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies:DLB)も考慮に入れる必要があります。DLBは,脳血流検査で後頭葉に血流低下を認めるとされています。iNPHの認知障害は前頭葉機能障害による思考速度・作業能力・意欲などの低下が主体で,高度の見当識障害や幻覚,妄想は稀です。iNPHでは脳室拡大,高位円蓋部狭小化,シルビウス裂・脳底槽拡大がみられ,脳萎縮とは異なった所見を示します。筆者らは,くも膜下腔が頭頂部では狭小化し,シルビウス裂や脳底部では拡大するというくも膜下腔の不均衡に着目して,disproportionately enlarged subarachnoid-space hydrocephalus(DESH)と命名しており,国際的にも広く知られています。
進行性核上性麻痺(progressive supranuclear palsy:PSP)は上方注視麻痺などとともにPD様症状を呈することがあります。PSPは,時に著明な脳室拡大を合併することがあり,筆者もiNPHの診断で髄液シャント手術を行い,著効を得た症例で,数年後に他院でPSPと診断された例を経験しています。画像所見で中脳被蓋の鳥のくちばし様変化(humming bird sign)が特徴的とされますが,早期にこの所見を認めるのは困難と考えます。
本例はNPHと診断されて経過観察中で,既に起立困難で,嚥下障害も合併しているとされています。iNPHのシャント手術は患者の自立度向上,介護者の介護負担軽減が目的の1つです。高齢で,寝たきりの状態が長い場合や重篤な全身合併症を有している場合には積極的な手術適応は乏しいのですが,上記の画像所見や髄液排除試験(タップテスト)で一時的な症状改善が得られれば,手術を考慮してもよいと考えます。
結論として,本例ではPDを合併している可能性はあるので,抗PD病薬を投与してみるのも選択肢と考えます。ただし,DLBでは時に薬に対して過剰な反応を示すことがあるので,事前にDLBの可能性についても検討されておいたほうがよいと考えます。

【参考】


日本正常圧水頭症学会特発性正常圧水頭症診療ガイドライン作成委員会, 編:特発性正常圧水頭症診療ガイドライン. 第2版. メディカルレビュー社, 2011, p1-182.

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