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rTMSの適応疾患と治療成績は?【保険適用はされていないが,特に脳卒中に対して有用であり,パーキンソン病,脊髄損傷,うつ病などへの効果が期待される】

No.4788 (2016年01月30日発行) P.68

佐々木信幸 (国際医療福祉大学教授/国際医療福祉大学 熱海病院リハビリテーション科部長/ 東京慈恵会医科大学リハビリテーション 医学講座講師)

登録日: 2016-01-30

最終更新日: 2021-01-06

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【Q】

経頭蓋磁気刺激療法(transcranial magnetic stimulation:TMS)の適応疾患と,その治療成績について教えて下さい。 (岐阜県 K)

【A】

TMSとは,頭上にのせたコイルから電磁波を用いて脳局所を非侵襲的に刺激する技術です。従来は,脳のどこで何をしているかを調べる脳局在性の検査技術でしたが,その刺激を反復させることにより脳活動性を制御できることがわかり,現在この反復性TMS(repetitive trans-cranial magnetic stimulation:rTMS)について,特に脳卒中に対するニューロリハビリテーション分野で様々な研究が進められています(図1)。
刺激局所の脳活動性は,5Hz以上の高頻度刺激(HF-rTMS)では促通され,1Hz以下の低頻度刺激(LF-rTMS)では抑制されます。片側大脳の脳卒中後には,左右大脳を互いに抑制する半球間抑制のバランスが崩れ,病巣側大脳は低活動に,非病巣側大脳は過活動になります。その状態に対し,病巣側大脳運動野をHF-rTMSで促通,もしくは非病巣側大脳運動野をLF-rTMSで抑制すると上肢麻痺が改善することが明らかにされており,特に慢性期脳卒中については十分な有効性が報告されています(図2)(文献1)。急性期においても,報告数は少ないものの肯定的であり(文献2,3),むしろ効果は慢性期よりも高い可能性が示唆されています(文献4)。
動物実験では,急性期の脳梗塞に対してHF-rTMSを適応することで梗塞巣の進展を抑制する神経保護作用も認められています。下肢の運動野は,上肢と異なり左右大脳の内側で隣り合っているために別々に刺激することは困難ですが,両側大脳の下肢運動野を同時にHF-rTMSで促通することで,両側性支配率の高い下肢近位帯を強化し歩行障害が改善することがわかっています(文献5)。
そのほか,脳卒中患者に対するrTMSの有効性は,嚥下障害・失語症などの高次脳機能障害にも認められており,今後の発展が期待されています。また,脳卒中以外にもパーキンソン病や脊髄損傷といった中枢神経疾患や,うつ病などの精神疾患に対する研究も進められているところです。
rTMSはまだ研究段階の治療法であり,わが国では,いまだ保険医療として認められてはいません。そのため,適応についてはあくまでもそれぞれの研究計画に則った対象にならざるをえません。
筆者の所属する東京慈恵会医科大学リハビリテーション医学講座の関連病院や国際医療福祉大学熱海病院では,様々な計画に基づいたrTMS研究を推進していますので,ホームページなどでご確認頂きご相談下さい。

【文献】


1) Kakuda W, et al:J Neuroeng Rehabil. 2012;9(1):4.
2) Sasaki N, et al:J Stroke Cerebrovasc Dis. 2013;22(4):413-8.
3) Sasaki N, et al:Brain Inj. 2014;20:1-5.
4) Hsu WY, et al:Stroke. 2012;43(7):1849-57.
5) Kakuda W, et al:Acta Neurol Scand. 2013;128(2):100-6.

【参考】

▼ 東京慈恵会医科大学リハビリテーション医学講座:脳卒中後遺症に対する経頭蓋磁気刺激(TMS)治療のご案内. [http://www.jikei-reha.com/▼page_id=509]
▼ 国際医療福祉大学熱海病院リハビリテーション科. [http://atami.iuhw.ac.jp/clinic/riha.html]

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