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CTで異常のない胸水貯留患者の治療方針に困っています…【微小病変の見落としに注意し,PETやVATS胸膜生検を検討】

No.4787 (2016年01月23日発行) P.61

植田充宏 (国立病院機構姫路医療センター呼吸器外科 医長)

登録日: 2016-01-23

最終更新日: 2016-10-25

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【Q】

81歳,男性。25年前に甲状腺癌の手術既往があります(甲状腺右葉切除,乳頭腺癌,リンパ節転移なし)。現在まで再発の徴候なし(生活は自立している)。最近,全身倦怠感,胸部が苦しいということで来院しました。胸部X線画像で多量の右胸水を認め,縦隔が左に偏位,右肺は虚脱していました(1年前の胸部X線画像では肺野や胸膜に異常所見なし)。右胸腔に胸腔内チューブを入れ,胸水を吸引しました。胸水細胞診では乳頭上皮集塊がみられ,classⅤ(腺癌)でした。胸水を吸引した後の胸部CTでは,肺野や胸膜に腫瘍を示唆する所見はありませんでした。
検査結果は,胸水CEA:76.3ng/mL,胸水ヒアルロン酸:4万7100ng/mL,血清CEA:2.9ng/mL,CA125:207U/mL,可溶性メソテリン関連ペプチド:2.1nmol/L,CYFRA:6.11ng/mL。約1カ月後にはCA125:447U/mL,CYFRA:14ng/mLに上昇。上部内視鏡検査で食道や胃に問題なく,大腸内視鏡検査は施行していません。腹部US,CTでは明らかなmassはありませんでした。
いったん退院しましたが,1カ月後には再び胸水を多量に認め,胸腔ドレーンを再挿入し,その4日後にユニタルクR4.0gを胸膜腔内に注入しました。
(1) 甲状腺癌術後25年が経過しており,今まで再発の徴候はなかったものの,右胸水(癌性)として再発することは考えられるでしょうか。
(2) CT上では胸膜に明らかな異変は認められませんでしたが,悪性胸膜中皮腫の可能性はいかがでしょうか。
(3) 胸腔鏡検査が望ましいと考えられますが,高齢でもあり,また患者も希望しないので施行しておりません。ほかに診断に近づく検査,または化学療法がありましたら,ご教示下さい。
(秋田県 F)

【A】

時として原発不明の癌性胸膜炎症例に遭遇することがあります。確定診断への手がかりを列挙すると,(1)悪性疾患の既往歴,(2)全身検索,(3)胸腔内の精査,になります。
(1)この症例では甲状腺乳頭腺癌の既往があります。手術から25年を経過して,1年間で胸水が急速に貯留する再発形式はきわめて稀ですが,癌細胞のタイプが類似しているのであれば完全には否定できないでしょう。この場合,胸腔内を含めほかの原発巣を除外する必要があります。
(2)PET検査の有無が不明ですが,もし行われていないのであれば胸腔内の精査も含めて考慮すべきです。
(3)数mm大の微小な腺癌で癌性胸膜炎の症例を経験したことがあります。“胸水を吸引した後のCTで肺野に腫瘍を示唆する所見はなかった”とのことですが,肺の再膨張が不完全な場合には肺の微小病変を見落とす可能性があります。また,胸膜中皮腫に関してもCTで明らかな胸膜結節やプラークが認められない症例で,PET検査のFDG高集積部位をターゲットにしたVATS(video-assisted thoracoscopic surgery)生検により確定診断を得られることがあります。これらの点からもPETは有用と考えます。ちなみにVATS生検は低侵襲であり,81歳でも十分に施行可能ですが,タルク注入前に行うほうがより望ましいと考えます。
以上をまとめると,胸腔内に明らかな原発巣を認めない胸水細胞診陽性例の場合には,PETを含む全身検索を行い,これらの結果を参考に胸腔内の観察を兼ねたVATS胸膜生検を考慮する流れになります。VATSの際に留置したドレナージチューブを利用して術後胸膜癒着術を行えば確実です。
検査,診断について述べましたが,重要なのは“原発巣をはっきりさせること”が“治療方針決定”に寄与するのかという点です。この症例で予後を規定するのは胸水のコントロールであり,胸膜癒着術で胸水貯留を制御できなければ予後不良が予測されます。高齢であり,仮に原発巣が判明しても化学療法を含め積極的治療は困難であり,適応に乏しいケースです。
患者が原発巣の確定・積極的治療を強く希望されるのであればPET+VATS生検を勧めますが,“希望しない”状況からは胸膜癒着術による胸水コントロールのみが現実的と考えます。

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