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皮膚科以外の診療科における疥癬患者診療時の注意点

No.4761 (2015年07月25日発行) P.66

谷口裕子 (九段坂病院皮膚科顧問)

登録日: 2015-07-18

最終更新日: 2016-12-13

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【Q】

通常疥癬治療を受けていた患者が,腰痛のため整形外科にかかりました。皮膚科以外で疥癬患者を診療する上で注意すべき点は何ですか。 (岩手県 O)

【A】

疥癬は直径0.4mmのヒゼンダニが皮膚の角層に寄生することで起こる,痒みの強い皮膚疾患です。病型には通常疥癬と重症型の角化型疥癬(ノルウェー疥癬)があり,病型によって治療・対処法が異なります(表1)(文献1)。疥癬はヒトからヒトに感染しますが,通常疥癬では長時間患者の肌に直接接触したとき,あるいは患者の寝具,衣類にすぐに接触するような間接接触により感染します。一方,角化型疥癬では短時間の介助や,舞い上がった鱗屑が付着する程度で感染することがあります。
通常疥癬の場合,内服薬イベルメクチン,あるいは外用薬フェノトリンローションを1週間隔で2回投与します(文献2)。これはイベルメクチン,フェノトリンのいずれも卵には効果が少ないためです。通常疥癬でも,診断前にステロイド外用薬を長期使用していた症例や,基礎疾患のためにステロイドや免疫抑制薬を全身投与されている症例では3回以上の投与が必要になることがあります。角化型疥癬ではイベルメクチン,フェノトリンそれぞれの投与回数の追加,あるいは両者の併用を行います。効果は1週間ごとに診察し,2回連続でヒゼンダニが検出されない場合に治癒と判定します。
以上より,受診した患者が通常疥癬で,治療開始後であれば,感染力はほとんどないと思われます。念のため医療者が手袋を着用し,ベッドのシーツやタオルを交換(洗濯は普通でよい)すればよいでしょう。角化型疥癬患者で治癒判定されていない場合,鱗屑から感染する可能性があるため,椅子やベッドにディスポのシーツなどを敷き,医療者はガウン・手袋の着用が必要です。診察後はディスポではないシーツはビニール袋に入れて,殺虫剤(ピレスロイド系)を散布するか熱処理(50℃,10分)します。鱗屑が落ちた可能性がある場合は,床に殺虫剤を散布します。
治療によりヒゼンダニが全滅しても痒みや丘疹,結節を繰り返す場合があり,数年続くこともあります(疥癬後遺症)(文献3)。特に乳幼児では,手掌や足底に水疱が出没することがあります。皮膚科専門医の診断を確認し,痒みや皮疹があるからといって,過剰対応しないようにします。

【文献】


1) Mellanby K:Scabies and Pediculosis. Orkin M, et al, ed. JB Lippincott, 1977, p8-16.
2) 石井則久, 他:疥癬診療ガイドライン(第3版). 日皮会誌. 2015. [in print]
3) 大滝倫子:節足動物と皮膚疾患. 加納六郎, 編. 東海大学出版会, 1999, p155-71.

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