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バセドウ病治療薬中止の目安

No.4725 (2014年11月15日発行) P.60

中村浩淑 (浜松医科大学名誉教授/隈病院学術顧問)

登録日: 2014-11-15

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

バセドウ病が軽快中の患者に対する休薬の条件について,具体的に。 (滋賀県 Y)

【A】

バセドウ病を抗甲状腺薬で治療してきて,TSHも含め甲状腺機能が完全に正常化している場合,抗甲状腺薬治療を打ち切ってもよいかどうかは,日常臨床でよく遭遇する悩みである。バセドウ病が寛解しているかどうかを判定するには,バセドウ病の活動性を正確に評価することが必要であるが,いまだ満足できる評価方法はない。したがって,現在最も実際的な方法は,「最少投与量で一定期間,TSH値も含めて甲状腺機能が正常に保たれていれば,患者とよく相談の上,休薬を試みる」ことである。無論,抗甲状腺薬治療を長く行っているほど寛解率は高い。
活動性の指標として最もよく用いられるのは,TSH受容体抗体(TRAb)値である。TRAb値の測定法には,TSHがTSH受容体に結合するのを患者血清中の抗体がどれだけ阻害するかで求める方法と,甲状腺細胞に患者血清を添加し細胞がどれだけ活性化するかで測定する方法(thyroid stim-ulating antibody:TSAb)がある。通常,前者の結合阻害によって求めるものをTRAbとしている。理論的にはTSAbのほうが実際の刺激活性を求めていることになるが,bioassay(生物検定)のため感度,再現性などでTRAbに劣っている。ただ,現行のTRAb測定法は,刺激抗体だけでなく,活性を阻害する抗体,あるいは刺激も阻害もしないニュートラルな抗体も含めて測定するため,刺激抗体以外のこれらの抗体が多く存在する患者の場合は,TRAb値が必ずしもバセドウ病の活動性を反映しない結果となる。
休薬するかどうかを判断する場合,TRAb陰性であれば寛解している可能性が高く,TRAb高値のときは再燃する危険性が高い。残念ながら,まだ寛解の指標としてのTRAbのカットオフ値は得られていない。個人的には第3世代のキットによるTRAb値が3IU/L以上の場合は休薬しない。ただし前述のように,TRAbは刺激抗体以外の抗体も含めて測定するため,バセドウ病の病態とT RAb値が乖離していると感じるときには,TSAbを測定する。TRAbが高値でもTSAbが十分低ければ,刺激抗体以外の抗体が存在している可能性がある。
筆者の具体的な方法は以下のようである。抗甲状腺薬としてメチマゾールを用いている場合,1錠(5mg)投与で半年~1年以上,TSHを含めて甲状腺機能が正常であれば,隔日服用とする。さらに,半年~1年,甲状腺機能が正常で経過し,TRAbが陰性ないし十分低ければ,患者とよく相談の上,試みにいったん休薬してみる。休薬する場合は,患者にはあくまで試みであること,したがって,休薬後も定期的に通院して検査を受ける必要があることをよく説明する。個人的経験では,この方法で寛解率は90%ほどである。なお,再燃した場合は,再度抗甲状腺薬治療を行うのか,131I-内用療法や外科的治療でバセドウ病を完全に治してしまうのかを,患者とよく相談する。
日本甲状腺学会の「バセドウ病治療ガイドライン2011」を参照されることをお勧めする。

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