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血糖値自己申告時の虚偽への対応

No.4719 (2014年10月04日発行) P.64

佐藤利彦 (夕陽ヶ丘佐藤クリニック院長)

登録日: 2014-10-04

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

糖尿病患者で,血糖自己測定(SMBG)をしているが,5人に1人は虚偽の値(ほとんど実際よりも低めの値)を記載している。正確な血糖値を記載してくれないと,治療のための薬やインスリンの調節が難しくなるため,困っている。
(1)どのような心理状態で虚偽申告をするのか。
(2)このような患者への対応法を。 (東京都 H)

【A】

SMBGでの血糖値の虚偽申告は,患者の治療成績が優れないことに対する羞恥や自責といった負の感情の表れである。叱責する姿勢ではなく,逆に,そのことを療養指導のチャンスととらえ,その感情を共有することで,良好な自己管理に結びつけることができる。
(1)虚偽申告をする患者の心理状態
臨床の現場では,主治医が糖尿病の専門医であってもそうでなくても,SMBGで虚偽の申告をする患者にたびたび遭遇する。最近では,各機器のメモリー機能が充実しているので,診察時に機器から直接データを抜き取るようにすれば,虚偽申告はなくなるが,かえって患者が血糖値を測定しなくなることもあるという問題点がある。
質問にもあるように,医師の立場からすると,なぜ虚偽の申告をするのか不思議に思われるかもしれない。ただし,患者の立場から考えてみると,個々の患者で,それなりに正当な理由がある。
まず言えることは,患者は主治医に高い血糖値を見せたくないということである。その理由としては,「自分がきっちり養生をしていないと思われたくない」「叱られるのが嫌(あるいはほめてもらいたい)」「血糖値が低いほうが診察がスムーズに終わる」など,いろいろとあると思われる。共通して言えることは,診察の場で,血糖値が高いことを話題にしたくないということである。
つまり,その患者にとって,血糖値が高いということは,医療者に対する“恥ずかしい”“申し訳ない” という感情(羞恥)と,うまくコントロールできていない自分に対する“情けない”“辛い”といった感情(自責)が混在した心理状態であることがほとんどである。
しかし,このような虚偽の申告が診療の現場で提出されることは,見方を変えれば,療養指導の介入のチャンスととらえることができる。血糖値の虚偽申告は,その患者の糖尿病そのものに対する考え方,感情も表している。
(2)虚偽申告をする患者への対応法
対応法としては,まず,その患者が“なぜ虚偽の申告をしたのか”,患者の情けない,辛いという感情を傾聴して理解し,共有することが重要である。
診察の場では,患者が血糖値が高いことで責められると危惧することを払拭するための工夫が必要である。やみくもに血糖値が高いときの事情聴取ばかりするのではなく,できるだけ血糖値がよいときの行動を認めてほめつつ,血糖値が高いときのことを話題にして,その解決方法を一緒に考える雰囲気作りが必要である。
虚偽を暴いたり,確認するような目線はよくない。嘘の数字を記入した患者は,その嘘を見抜かれたときには,ますます前述のような羞恥心と自責の感情が強くなるからである。
参考までに,虚偽申告時に多くみられる特徴を以下に挙げる。
・ あまり記録ノートを開け閉めしないので記録用紙がきれいである
・ 毎日記入するのではなく,まとめて記入するので,文字が縦の列に綺麗に並んでいる
・ 血糖値の末尾の数字に偏りがある(0~9の中で特に多い数字が2つくらいある。さりげなく患者に好きな数字を1つ聞いてみると,そのよく使われている数字のうちのいずれかであることが多い)
中には,痛みや,いつ測っても血糖値が高いなどの理由でSMBGに嫌気がさし,まったく測定もせずに数値だけ書いてくる逃避型の患者もいるので注意が必要である。
いずれにしろ,虚偽申告は,よいコントロールをしなければいけないという気持ちの裏返しの行為である。患者の手段は誤ってはいるものの,診療においては,その気持ちを認める姿勢が重要である。

【参考】

▼ 佐藤利彦:糖尿病ケア. 2008;5(4):374-6.
▼ 尾畑千代美, 他:日先進糖病治療研会誌. 2009;5: 12-5.

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