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糖尿病と認知症の関連

No.4712 (2014年08月16日発行) P.61

荒木 厚 (東京都健康長寿医療センター糖尿病・代謝・内分泌内科内科総括部長)

登録日: 2014-08-16

最終更新日: 2016-12-12

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【Q】

糖尿病患者の認知症発症リスクが高くなる機序について。 (鳥取県 M)

【A】

疫学調査のメタ解析で糖尿病患者では糖尿病がない人と比べて,アルツハイマー病(alzheimer’s disease:AD)が1.5倍,血管性認知症が2.5倍多いことが報告されている(文献1)。わが国の久山町の疫学調査でも境界型耐糖能異常(impaired glucose tolerance:IGT)から起こる認知症が増加している。

[1]インスリン抵抗性と認知症
中年期の肥満,メタボリックシンドローム,IGTはインスリン抵抗性が高い病態であるが,認知症を起こしやすい(図1)。運動不足,高脂肪食などの生活習慣や,うつ状態などはインスリン抵抗性を高くするため,認知症発症の危険因子である。
末梢でのインスリン抵抗性があると脳ではインスリン作用不足が起こり,認知症の発症が加速する。高インスリン血症があると,血液脳関門のインスリン移行や脳でのインスリン合成が低下する。インスリン作用が低下するとアミロイドβ蛋白(amyloid beta protein:Aβ)の分解が抑制され,Aβが蓄積し,GSK-3β活性が亢進し,リン酸化タウの合成が高まる。高血糖に伴う炎症,酸化ストレス,最終糖化産物(AGE)の産生もAβの産生に寄与する。
運動,減量,地中海食はインスリン抵抗性を改善し,認知症発症を予防する。インスリン抵抗性改善薬,DPP-4阻害薬,GLP-1受容体作動薬はADの動物モデルの脳でのインスリン作用を改善し,認知機能障害やAβの蓄積を予防する。
インスリンは海馬,皮質に受容体があり,記憶や学習に関与しているが,AD患者では脳のインスリン情報伝達障害がみられる。点鼻インスリン療法は脳に直接移行し,AD患者の認知機能を改善し,脳血流を改善する(文献2)。このことは脳でのインスリン作用を保つことが認知機能の維持に重要であることを示している。

[2]高血糖,低血糖,血糖変動と認知症
糖尿病患者で高血糖になると,注意力,実行機能などの認知機能の障害が起こる。高血糖に伴う認知機能障害は血糖を短期間コントロールすることで,一部改善する。また,高血糖(HbA1c 7.0~8.2%以上)の糖尿病患者は認知症を発症しやすい。
高齢糖尿病患者では重症低血糖があると,認知症を起こしやすい。軽症の低血糖でも,計算時間の増加などの認知機能低下が起こる。
持続ブドウ糖モニター(CGM)で評価した血糖変動の指標のMAGEが大きいと酸化ストレス,炎症が起こり,認知機能低下がみられる。血糖変動が大きいことは海馬などの脳の萎縮とも関連がみられる(文献3)。
DPP-4阻害薬ではSU薬と比べて,認知機能が改善するという報告がある(文献4)。この調査で2年間認知機能が維持された因子は血糖変動が小さいことと,DPP-4阻害薬を投与したことであった(文献4)。したがって,血糖変動を小さくするような糖尿病治療が認知機能の維持に重要である。

[3]動脈硬化性疾患の危険因子
脳梗塞の合併や脳の動脈硬化の合併も糖尿病における認知症の発症要因の1つである。高血糖,高血圧,脂質異常症などの動脈硬化性疾患の危険因子は,血管性認知症だけでなく,ADの危険因子でもある。MCI(軽度認知障害)の患者に糖尿病,高血圧,脂質異常症の治療を包括的に行うと,ADへの移行が約39%減少した(文献5)。
以上より,糖尿病で認知症が多い原因は(1)インスリン抵抗性,(2)不適切な血糖コントロール,(3)脳梗塞や動脈硬化の合併などである(図1)。

【文献】


1) Cukierman T, et al:Diabetologia. 2005;48(12): 2460-9.
2) Craft S, et al:Arch Neurol. 2012;69(1):29-38.
3) Cui X, et al:PLoS One. 2014;9(1):e86284.
4) Rizzo MR, et al:J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2014. [Epub ahead of print]
5) Li J, et al:Neurology. 2011;76(17):1485-91.

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