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特発性肺線維症(IPF)の急性増悪時の対応

No.4772 (2015年10月10日発行) P.52

小倉高志 (神奈川県立循環器呼吸器病センター 呼吸器内科部長/副院長)

登録日: 2015-10-10

最終更新日: 2016-11-10

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【Q】

特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis:IPF)の急性増悪の致命率は高く,一方で治療エビデンスは十分確立しておらず,悩ましい臨床場面が多くあります。ステロイドパルス療法,シクロホスファミド大量投与,経験的抗菌薬,ポリミキシンBカラム,好中球エラスターゼ阻害薬,その後のステロイドや免疫抑制薬による維持療法など,薬剤選択,投与のタイミング,量などのポイントについて,神奈川県立循環器呼吸器病センター・小倉高志先生のご教示をお願いします。
【質問者】
長瀬洋之:帝京大学医学部内科学講座 呼吸器・アレルギー内科准教授

【A】

IPFは予後不良な疾患ですが,通常,その進行は緩徐です。ただ,時に経過中に新たな肺の浸潤影が出現して急速に呼吸不全が進行することがあり,肺炎,心不全などが否定され原因不明な場合に,「急性増悪」と診断されます。
図1に,当センターにおける原則として施行しているIPFの急性増悪に対する治療プロトコールを示します。ステロイドに加えて,早期に2種類の免疫抑制薬を加えています。症例によっては,エンドトキシン吸着(polymyxin B-immobilized fiber column direct hemoperfusion:PMX-DHP)療法も,ステロイドパルス療法開始後,早期に施行しています。補助療法として,好中球エラスターゼ阻害薬と広域の抗菌薬を併用します。
(1)ステロイド
急性増悪の治療に関して確立した治療方法はありませんが,IPFの治療に関する2011年国際ガイドラインでも,今まで報告された成績と急性増悪症例の高い死亡率を考慮して,エビデンスは低いものの,ステロイドの治療を勧めています(weak recommendation, very low-quality evidence)。エビデンスのある投与量や方法はなく,多くの場合,ステロイドパルス療法〔methylprednisolone(mPSL)500~1000mg/日を3日間〕で,症状の安定化が得られるまで1回/週で2回は繰り返します。パルス療法の間は,プレドニゾロン〔prednisolone(PSL)0.5~1mg/kg/日〕を継続します。安定化後もPSLは初期量で1カ月は投与し,その後に2週間おきに5~10mgで減量します。ただ,ステロイドの慎重な減量にも異論はあります。治療中の日和見感染や糖尿病の悪化の頻度が高いことを考慮すると,今後はステロイドの減量の方法も検討すべきです。
(2)免疫抑制薬
感染症がある程度否定されたら,早期に免疫抑制薬の投与を検討しています。シクロホスファミド(cyclophosphamide)パルス療法〔intravenous cyclophosphamide pulse therapy:IVCY)〕,シクロスポリン(cyclosporin)やタクロリムス(tacrolimus)を投与します。IPFは高齢者で発症しやすい疾患ですが,特に75歳以上であったり,肝臓・腎臓障害などの合併症がある場合は,IVCYは控えています。
(3)抗菌薬
実地医療においては感染症の完全な否定は困難であり,広域の抗菌薬の投与を行います。
さらに,最近は注射用アジスロマイシン(azithromycin:AZM)をIPFの急性増悪に投与して,歴史的対照群との比較で有効であったという報告(文献1)があるため,併用しています。
(4)好中球エラスターゼ阻害薬
シベレスタットは肺組織障害や血管透過性亢進を引き起こす蛋白分解酵素である好中球エラスターゼを阻害し,急性肺障害の進行を抑制する可能性があります(文献2)。
(5)エンドトキシン吸着(PMX)療法
ポリミキシンBを化学的に固定した線維をカラム内に充填して体外循環させ,PMXカラムを通過させることで血液中からエンドトキシンを除去するものです。ポリミキシンBがHMGB-1,IL-6などのサイトカイン,活性化した白血球を吸着する可能性があり,PMXがIPFの急性増悪に有効であることが示唆されています(文献3)。当科においては,現在その評価のために先進医療による多施設前向き試験に参加して使用しています。
最近の話題として,抗線維化薬を急性増悪の発症後に早期に投与して有効であったという報告(文献4)があります。また,急性増悪では肺に集積した好中球が血管内皮を障害して,凝固線溶系の異常が病態に関与しているため,リコモジュリンRの投与が有効であったという報告(文献5)があり,今後可能性のある治療と考えられます。

【文献】


1) Kawamura K, et al:Respiration. 2014;87(6):478-84.
2) 中村万里, 他:日呼吸会誌.2007;45(6):455-9.
3) Abe S, et al:Intern Med. 2012;51(12):1487-91.
4) Ohkubo H, et al:Respir Investig. 2015;53(1):45-7.
5) Kataoka K, et al:Chest. 2015 Mar 26.[Epub ahead of print]

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