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貴ノ浪と日本の医療に共通するもの [お茶の水だより]

No.4757 (2015年06月27日発行) P.9

登録日: 2015-06-27

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▼若乃花や貴乃花、曙とともに平成の大相撲ブームを牽引した元大関・貴ノ浪が亡くなった。長い手足を生かし相手を懐深く引っ張り込む独特の取り口で、数々の好勝負を繰り広げた人気力士だった。
▼相撲中継では“懐が深い”という表現がしばしば用いられる。広辞苑によると、(1)相撲で四つに組んだ時、胸のあたりが広く相手になかなかまわしを与えない、(2)包容力がある。度量が広く、寛容である―とある。相手に攻め込まれはするが、しっかりと深い懐で受け止め、土俵際で粘り、最後は勝ち名乗りを受ける。貴ノ浪の相撲そのものといえる。
▼日本の医療制度の特徴の1つは、まさに懐が深いところにある。国民皆保険制度に基づき、「誰でも、いつでも、どこでも」良質な医療が受けられる医療提供体制を、50年以上も維持していることは世界に誇れる。もちろん財政面の課題は小さくない。しかし、今の政府の目指す医療改革は日本医療が守ってきた長所を失う恐れがあり、看過できない。
▼たとえば、『骨太の方針2015』の素案では、病床の機能分化・連携を促進する必要性を指摘した上で、地域差の是正という名の下に療養病床の削減を打ち出している。可能な限り在宅へ移行する方向性自体は否定しないが、今後は人工呼吸器をつけたような医療必要度が高く、かつ介護体制も整っていない「在宅は土俵の外」という患者が増加するのが現実だ。
▼貴ノ浪も伸び悩み相撲の型を変えたことがあった。しかし、かえって負けが込んだことから相手を引っ張り込む相撲に戻し、2回の優勝につながった。幅広い患者を受け入れる慢性期の病床は、医療が必要な高齢者にとっていわば最後の砦。超高齢社会にこそ、土俵際で踏ん張りの利く、徳俵のような懐の深い医療提供体制を守る必要があるのではないか。

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