本疾患の発症時の病原体が侵入するルートとして,尿道から精管を経て精巣上体へと侵入する逆行性感染が一般的である。小児期を越えた若年層では性感染症(sexually transmitted infection:STI)が,高齢者では尿路感染症(urinary tract infection:UTI)が進展した一病型として認められる場合も少なくない。また,若年層ではNeisseria gonorrhoeaeやChlamydia trachomatisなどを原因微生物とする可能性が考えられる1)。一方,高齢者では,複雑性尿路感染症の延長上として,その代表的な原因菌である,Escherichia coli,Klebsiella pneumoniae,Pseudomonas aeruginosaなどが原因微生物とされる。そこで薬剤耐性の問題を考慮する必要がある。すなわち,これらの中で特にE. coli,K. pneumoniaeに関しては,近年代表的な薬剤耐性菌のひとつであるextended-spectrum beta-lactamase(ESBL)産生菌が報告され,かつその分離頻度も年々上昇傾向であるため,治療時の抗菌薬選択には注意が必要である。
また精巣炎は多くの場合,ムンプス性などのウイルス性精巣炎であることが多く,流行性耳下腺炎に伴う場合が多い。主な症状として,発熱,疼痛,陰囊の腫脹・発赤がある。加えて,感染後は妊孕性低下の可能性もある。治療としては対症療法がメインとなる。
陰囊内容の疼痛,腫脹,圧痛ならびに同部位皮膚の発赤を主症状とする。そして多くの場合,発熱も伴う。典型例では,1~2日の経過で同疼痛は増悪傾向を示し,その後下腹部へと放散する。そのほかの症状としては排尿に関しての症状,すなわち頻尿,排尿時痛,残尿感などを伴うこともある。
診断・検査として,膀胱炎あるいは尿道炎を伴うときは一般検尿の尿沈渣検査で膿尿を認める。また血液検査では炎症反応,すなわち白血球増多,CRP上昇がみられる。発熱,陰囊内容腫大,疼痛・圧痛の自覚症状や検査所見は,クラミジア性のものは細菌性に比して軽度である。触診上は,感染初期は陰囊底部の精巣上体尾部から腫大と圧痛がみられ,進行例では精巣上体全体が一塊に触れ,さらに精巣上体精巣炎まで進展することもある。重症例になると(多くは細菌性),炎症は精巣まで波及して,精巣上体精巣炎となることもある。
さらに,human immunodeficiency virus(HIV)陽性患者やステロイド内服中などの免疫抑制患者においては,cytomegalovirus(CMV)などのウイルス感染症も原因となりうるが,その場合は精巣が主病巣となる。原因微生物の同定検査としては,初尿中のクラミジア核酸増幅検査,尿一般細菌培養を行う。
一般的に,発熱を伴わない場合には,精巣捻転症など,そのほかの急性陰囊症との鑑別を要する場合もあり,特に注意が必要である2)。
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