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【識者の眼】「炭酸飲料と増粘剤」大沢愛子

No.5237 (2024年09月07日発行) P.66

大沢愛子 (国立長寿医療研究センターリハビリテーション科医長)

登録日: 2024-08-26

最終更新日: 2024-08-26

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今年の立秋は8月7日。暦の上では秋というのが信じられないほど連日厳しい暑さが続き、冷えた炭酸飲料やビールなどを楽しみにする人が少なくない。炭酸飲料には“すっきり爽快”というイメージもあり、特に暑い時期は人気が高い。しかし、もしあの独特の“シュワッ”とした爽快な刺激が味わえなかったら、どのように感じるだろうか。

以前は炭酸飲料にとろみをつけることのできる増粘剤がなく、液体にとろみをつける必要のある摂食嚥下障害の人は、長らく炭酸飲料の“シュワシュワ感”を楽しむことができなかった。増粘剤は、飲食物の硬さを適度に調整し、食塊形成や咽頭通過を容易にする効果があり、誤嚥を防ぐために広く利用されている。日本の高齢化に伴い、誤嚥性肺炎の罹患者数は増加し、年間に6万人以上の人がこの疾患で命を落としている1)。特別な疾患がなくても、水分を摂るとむせるようになったという高齢者も少なくない。そのような中、名古屋発祥の有名な喫茶店チェーン店が、摂食嚥下機能の低下した高齢者でも喫茶を楽しめるようにと、“とろみコーヒー”をメニューに加えたのは記憶に新しい。しかし、炭酸飲料にとろみをつけられるようになったことは、まだ多くの人に知られていないかもしれない。

「そもそも高齢者が炭酸飲料など飲むのか?」という疑問があるかもしれないが、平均年齢74.3歳の高齢者1100名を対象とした調査2)では、56.6%の人が過去1カ月以内に炭酸飲料を飲んでおり、炭酸飲料を禁止された場合、「受け入れられない」と答えた人が60.5%に達した。高齢者が炭酸飲料を飲まないという考えは、もはや時代遅れである。炭酸飲料用の増粘剤の登場も、こうした時代の変化を反映していると言えるだろう。

10年以上前、リハビリに励む患者が「退院したらビールが飲みたい」と話したことをきっかけに、炭酸飲料用でない増粘剤でアルコール類にとろみをつける実験をしたことがある。日本酒や焼酎などは、とろみによって濃厚になり、意外と美味しかったが、ビールの泡は固まり、苦みが強調され、患者は「二度とビールは飲めない」とがっかりしていた。今では彼も、炭酸飲料専用の増粘剤の発売を喜んでいることだろう。もちろんアルコール摂取を無理に勧めるわけではないが、障害の有無にかかわらず、誰もが同じ体験を楽しめる社会をめざしたいものである。

【文献】

1)厚生労働省:令和5年(2023)人口動態統計月報年計(概数)の概況.
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai23/dl/gaikyouR5.pdf

2)前田圭介:老年症候群と食および排泄の問題に関する研究(20-57). 長寿医療研究開発費 2020年度 総括研究報告. 2021.

大沢愛子(国立長寿医療研究センターリハビリテーション科医長)[とろみ調整食品][摂食嚥下機能の低下]

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