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【識者の眼】「障害は生涯にわたって変わらない?①─気づきにくい障害の変化と必要な支援」藤原清香

No.5219 (2024年05月04日発行) P.66

藤原清香 (東京大学医学部附属病院リハビリテーション科准教授)

登録日: 2024-04-16

最終更新日: 2024-04-16

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先天性疾患による障害のある患者を診療していると、10年や20年以上という長期経過の中で緩やかに障害が悪化してきた、30〜40代以降の比較的若い働き盛りの患者を診ることがあります。

健常者と同等に仕事をしている自負もありますし、日本人気質なのか仕事を優先し、自らの障害の状態に変化があっても、成長期の大きな変化を乗り越えた経験と、それでもこれまで社会に適応してきた自負もあるのか、受診を二の次、三の次にしてしまう人もいます。自らの疾患や障害について相談できるかかりつけ医を持つことなく、20年やそれ以上の期間、医療機関にかかっていなかったという話もしばしば聞きます。小児期からの長い経過を新しい医療機関で説明するのも大変であり、自分の障害の悪化について、初めて受診する医療機関ではどの診療科に相談すればよいのかわからなかった、と言う人も多くいます。医師側も、知らない疾患や見慣れていない障害は対応の仕方がよくわからなかったり、長い経過を聴取する時間もなかったりしますから、日々忙しい診療の中で丁寧に対応することは難しいかもしれません。

小児期の成長に伴う障害の変化を乗り越えると、成人後は成長や環境の大きな変化がなくなるということもあり、多くは小児病院や療育センターなどで治療された後は、紹介状を渡されて今後は一般病院で継続診療を受けるように指示されることになります。脳性麻痺の患者を例に挙げると、出生時から就学前までは小児科を中心に非常に手厚い医療的支援を受けます。そして症状や障害に対する新たな治療の必要がなくなれば、年に1回顔を見るだけといった外来が続くこともあります。それでも成長期に障害がある場合はリハビリテーション治療を週1回や月1回と継続する場合もありますが、障害に変化がなければこれも終了になります。健康上の大きな変化がなくなっていることから、成人後は医療機関にかかる新たな疾病や大きな病状変化があるわけではないと、受診することはなくなります。また現在の医療では、こうした超長期にわたる障害に対してフォローできる体制にはなっていません。

身体機能面で10年以上の経過で生じる障害の緩やかな変化は、本人だけでなく家族を含めた周囲も気づきにくく、また日々の生活の中で医療との関係性が希薄になって、ましてリハビリテーション治療についても長期間縁のないような状況になってしまいます。小児期からの障害を含めた慢性期障害者の長期経過をフォローできる医療機関が少なく、対応がむずかしい状況になっていると言えます。   

日本が超高齢社会となり多様性社会をめざす中で、健常者だけでなく様々な障害のある人たちも健康寿命を保ち、生活の質QOLの向上を当たり前にめざせる環境が実現できるよう、私たちは取り組んでいく必要があります。

藤原清香(東京大学医学部附属病院リハビリテーション科准教授)[障害児・者の健康寿命[超長期のフォローアップ]

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