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【識者の眼】「第117回医師国家試験は憲法違反を強要する不適切問題を出題している」小田原良治

No.5201 (2023年12月30日発行) P.54

小田原良治 (日本医療法人協会常務理事・医療安全部会長、医療法人尚愛会理事長)

登録日: 2023-12-18

最終更新日: 2023-12-18

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「70才の男性。肺炎で入院加療を受けている。肺炎が治癒したため、自宅に退院予定であった。担当医が早朝に診察するために病室に入ったところ、点滴チューブの接合部が外れ、床面に逆流した血液が溜まっているのを発見した。患者の状態を確認したところ、既に患者の下顎に死後硬直を認め、死亡確認を行った。この状況で行うべき適切な対応はどれか。a 清掃の指示、b 異状死の届出、c 保健所へ連絡、d 病理解剖の依頼、e 死亡診断書の記載」。

これは第117回医師国家試験問題であり1)、厚生労働省の正答は「b 異状死の届出」とされている2)

これは、明らかに不適切問題であろう。医師法21条は、「医師は、死体又は妊娠4月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない」との条文であり、「異状死体の届出」であって、「異状死の届出」ではない。

「異状死体」とは何かについては、司法的には、東京都立広尾病院事件判決で外表面の「異状」であることが確立しており、行政的には、筆者らの要請に応えて厚労省は、2019年4月24日付で厚生労働省医政局医事課事務連絡を発出し、直ちに、「平成31年度版 死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル」の追補版を出している3)。また、『医事法判例百選 第3版』4)にも記載されたことにより、教科書的にも定着しているのである。厚労省医政局医事課の試験免許室が医師国家試験の担当である。担当者は、同じ医政局医事課が確定させた通知を把握していなかったのであろうか。

医師国家試験は医師の基礎知識の確認のための大事なステップである。一方、医師法21条は完全な法律事項であり、法解釈の問題である。医師法21条は警察捜査の端緒となった時点で憲法38条1項(自己負罪拒否特権)違反である。厚労省は、憲法違反を強要するような国家試験不適切問題を早急に訂正すべきであろう。

【文献】

1)第117回医師国家試験 B問題 問40.
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/topics/dl/tp220502-01b_01.pdf

2)第117回医師国家試験 正答値表.
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/topics/dl/tp220502-01seitou.pdf

3)小田原良治:死体検案と届出義務─医師法第21条問題のすべて—. 幻冬舎, 2020, p218-28.

4)小島崇宏:異状死体の届出義務. 医事法判例百選. 第3版. 甲斐克則, 他, 編. 有斐閣, 2022, p6-7.

小田原良治(日本医療法人協会常務理事・医療安全部会長、医療法人尚愛会理事長)[医師法21条][異状死体]

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