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【識者の眼】「お医者様と患者様」勝田友博

No.5196 (2023年11月25日発行) P.64

勝田友博 (聖マリアンナ医科大学小児科学准教授)

登録日: 2023-11-06

最終更新日: 2023-11-06

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以下は、コーヒーショップで娘と一緒に順番を待っていた際の、我々の1つ前で待っていた男性と店員のやりとりである。男性は開口一番「コーヒー!」、店員『ホットとアイスどちらになさいますか?』、「ホット!」、『サイズはいかがいたしますか?』、「M!」、『当店ですとトールサイズでよろしいですか?』、「はっ? Mだよ。Mサイズ!」、『(実際のカップをみせて)それではこのくらいのサイズでいかがでしょう?』、「(イライラしながら黙ってうなずいて)いくら?」、『ありがとうございます。〇〇円です』。お客様は神様ですと言われていた日本では、以前は(今でも)よく見た光景かと思う。一緒に待っていた娘に小声で「なんであの人、あんなに偉そうなの?」と尋ねられ、私は「なんでだろうね?」と苦笑いするしかなかった。

今の医療界における医師・患者関係はどうだろう? 過去においては「患者」が「お医者様」に診てもらう時代があったことも否定しないが、現代においては、むしろ「医者」が「患者様」を診察させていただくスタイルが浸透しているようにも感じる。私は小児科医であるが、入院中の患児の保護者に「平日は仕事で忙しいので日曜午後の面会時間に説明を聞きたい」、夜間の救急外来に患児を連れてきた保護者に「明日は大事な会議があってどうしても仕事を休めないので、夜のうちにこの子に1週間分の処方をしてほしい」などという相談を受けることがしばしばある。

一方で、医師側にも、今でも「お医者様」スタイルが無意識に残っているようにも感じる。現代医療は、医療従事者と患者が十分な相談をし、診断治療方針を双方納得の上で決定することが常識となっているが、実際には両者の意見が合致しないことも多い。

たとえば、私の専門領域である小児感染症においても、一部の保護者は医療従事者側が推奨するワクチンの接種を躊躇していることがある。そのような保護者に出会ったとき、我々は思わず自分自身が持つ経験と知識のすべてを使ってそのワクチンを接種するように彼らを「説得」しようと試みてしまうことがある。そして、その説得内容は理論上は正しかったとしても、多くの場合、説得自体には失敗することが多い。彼らにとっては、どんな内容を説明されるかも重要であるが、誰からどのような態度で説明されるかが非常に重要であり、信頼関係の構築が不十分な医師に正論を一方的に聞かされても行動変容にはつながらないからである。

コーヒーショップでも病院でも、対等なコミュニケーションが重要であることに変わりはない、と改めて認識したエピソードであった。

勝田友博(聖マリアンナ医科大学小児科学准教授)[患者の都合][医師の説得][対等なコミュニケーション]

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