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特集:高中性脂肪血症の治療戦略

No.5183 (2023年08月26日発行) P.18

野末 剛 (横浜栄共済病院循環器内科診療部長)

登録日: 2023-08-25

最終更新日: 2023-08-23

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1996年金沢大学医学部卒業。2021年4月より現職。金沢大学医薬保健学域医学類臨床准教授兼任。日本動脈硬化学会認定動脈硬化専門医・指導医・評議員。脂質異常症,動脈硬化に関する論文を多数報告。

1 スタチンによるLDLコレステロール低下療法
多くの疫学研究により,LDLコレステロール値が高くなれば,冠動脈疾患の発症率・死亡率が上昇することが示された。また,多くの大規模臨床研究により,スタチンによるLDLコレステロール低下療法が冠動脈疾患の一次予防・二次予防に有効であることが立証された。しかし,わが国のLDLコレステロールのコントロール状況は,二次予防患者で100mg/dL未満を達成している症例は55%,急性冠症候群の既往のある患者で70mg/dL未満を達成している症例は27%にすぎない。

2 スタチン治療の残余リスクの1つである高中性脂肪血症
スタチン単独療法ではすべての心血管イベントを予防できないことも事実であり,スタチン治療には残余リスクが存在する。スタチン治療の残余リスクとして,高中性脂肪血症,脂肪酸バランス,Lp(a),small dense LDL,レムナントリポ蛋白などが挙げられる。スタチン治療によりLDLコレステロールが厳格にコントロールされているにもかかわらず心血管イベントを再発する症例は,高中性脂肪血症がイベントの再発に強く関与していると考えられる。

3 動脈硬化性疾患予防ガイドラインの改訂
従来,中性脂肪の評価は空腹時採血で行われていたが,非空腹時でも心血管イベントと関連することが指摘されている。『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版』では,空腹時中性脂肪150mg/dL以上,随時中性脂肪については,わが国の疫学調査の報告や欧州心臓病学会(ESC)/欧州動脈硬化病学会(EAS)ガイドラインとの整合性も考量し,175mg/dL以上を高中性脂肪血症と定義された。

4 高中性脂肪血症の治療
高中性脂肪血症の治療薬としてはフィブラート系薬剤や選択的PPARαモジュレーター(SPPARMα:ペマフィブラート),ω-3系脂肪酸製剤やニコチン酸誘導体が中心になるが,エゼチミブやスタチンも中性脂肪を低下させる能力があり,脂質異常症の病態により使用薬剤を決めていく必要がある。
SPPARMαはPPARαが作用する遺伝子の中で脂質代謝に関わる標的遺伝子の転写を選択的に調節するため,中性脂肪低下効果やHDLコレステロールの上昇効果に加え肝臓・腎臓への影響が少なく,スタチンとの併用が可能な新しいクラスの薬剤と位置づけされている。

5 中性脂肪低下療法と心血管イベント
PROMINENT試験では,高中性脂肪かつ低HDLコレステロール血症の2型糖尿病患者を対象にSPPARMαを投与し,有意な心血管イベント抑制効果を示すことができなかった。しかし,中性脂肪低下療法のメタ解析において,中性脂肪を40mg/dL低下させると心血管イベントの相対リスクが8%低下することが報告されており,中性脂肪を低下させることへの懸念はない。
『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版』においては,中性脂肪の管理目標値は175mg/dL未満だが,中性脂肪をどのレベルまでコントロールすると心血管イベントが減少するかは明確になっていない。

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