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特集:うつ症状の鑑別診断手順ガイド

No.5182 (2023年08月19日発行) P.18

太田大介 (聖路加国際病院心療内科部長)

登録日: 2023-08-18

最終更新日: 2023-08-16

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1992年、新潟大学医学部卒業。新潟県立がんセンター,東邦大学心療内科などを経て現職。心療内科専門医。著書に『レジデントに贈る心療内科の思考プロセス』(南山堂)など。

1 うつ病患者の多くは初めに身体科各科を受診する
うつ病患者の4分の3は初めに内科や整形外科など,身体科各科を受診している。つまり,うつ病患者は抑うつ気分を最初に訴えるというよりも,各種の身体症状を訴えることが多いのである。プライマリ・ケア医が最初に診察することになるケースが多いのは当然と言える。

2 うつ病を疑い診断する(横断的視点と経時的視点)
うつ病患者の多くは身体症状を自ら訴えて受診するが,精神症状については医師から積極的に問診をしないと拾うことはできない。初めに,うつ病スクリーニングツールを用い,「抑うつ気分」「興味減退」の2項目などを確認し,うつ病が疑われた場合,診断基準に沿って確認していく。DSM-5などの診断基準に従って診断することが一般的である。
一方で,このような一時点での診断を「横断的視点」とするならば,経時的に症状の変化をみていく「経時的視点」も重要である。特に患者と長く付き合いのあるプライマリ・ケア医にとって,経時的に患者を観察することは得意分野ではないだろうか。うつ病患者の多くは不眠を初めに訴えることが多い。睡眠薬が効きにくい不眠をみたら,うつ病を疑おう。さらに,落ち着かない,イライラするなどの気分の変動,焦燥感がみられるようになれば,精神症状としてはより重度になっているとみるべきである。それらの症状に伴って,肩こり,頭痛,腰痛,背部痛,倦怠感などの身体症状が出てくる。そのため,身体科各科を受診するようになる。

3 他の疾患との鑑別
鑑別すべき身体疾患として,脳腫瘍や膵癌などの悪性腫瘍が挙げられる。悪性腫瘍は,見落とすと生命予後に直結するので必ず念頭に置いておきたい。心不全や急性心筋梗塞などの循環器疾患とうつ病との合併も多い。甲状腺機能低下症や2型糖尿病などの内分泌・代謝疾患,パーキンソン病・認知症・脳卒中後などの神経系疾患,睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害,更年期障害などの婦人科系疾患,双極性障害・統合失調症・アルコール依存症などの精神疾患が鑑別すべき疾患として挙げられる。

4 高齢者に必要な「3つのD」との鑑別
高齢者では,うつ病(depression),認知症(dementia),せん妄(delirium)との鑑別がしばしば問題となる。

5 うつ病治療に関する限界設定
うつ病はこれまで述べてきたように,プライマリ・ケアの現場で十分対応できる疾患であるが,それぞれの施設で治療範囲の限界を理解しておく必要があるだろう。それが自分たちの治療の現場を守ってくれることにもなる。

伝えたいこと…
うつ病は一般診療でみる機会の多い疾患である。初期には不眠その他の身体症状のみをきたすことも多く,次第に各種の身体症状が増えたり重くなったりしながら,やがて抑うつ気分,興味減退,集中力低下などの精神症状をきたす。症状を拾い上げる横断的視点に加えて,経過をみる中で全体の流れをみる,経時的視点も必要である。鑑別診断としては,脳腫瘍をはじめとする悪性腫瘍や内分泌疾患などを見落とさないようにしたい。
うつ病はプライマリ・ケアの現場で十分に対応できる疾患であるが,治療の場の限界設定も意識しておこう。つまり,希死念慮や躁病エピソードがみられるときに,どこまでが自分の施設で対応可能で,どこからが専門施設に依頼しなければいけないのか,という線引きのことである。

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