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高齢者と介護のヘルスサービスリサーチ【臨床医に伝えたいヘルスサービスリサーチ(7)】

No.5177 (2023年07月15日発行) P.36

佐方信夫 (筑波大学医学医療系ヘルスサービスリサーチ分野准教授)

登録日: 2023-07-18

最終更新日: 2023-07-14

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  • 1. はじめに─高齢者診療と介護

    高齢者の健康について考えるときに,医学的観点だけではその評価が十分でないことは知られている。実際に高齢者診療の場面では,加齢や社会的背景の影響もあるため,精神・心理面や社会・環境面等も含めて評価する,高齢者総合的機能評価(comprehensive geriatric assessment:CGA)などの方法が取り入れられている。CGAでは,基礎疾患等の臨床情報や認知機能に加えて,入浴や排泄など日常生活動作(ADL)も評価される。このように高齢者診療においては,医療の情報だけでなく介護の情報も収集して,適切な介護サービスの導入を促すことが,日常診療のルーチンになってきている。

    高齢者の介護については,わが国は世界でも有数の独立した介護保険制度を有しており,きめ細かいサービス提供の仕組みから,様々なバリエーションで介護サービスを受けることができる。一方で,提供される介護サービスの質や介護事業所の評価は不十分である,との指摘は多い。また,介護政策については医療政策よりも評価が行われていない。このように介護分野については,学術的な手法による評価が必要とされる,重要な一分野と言える。

    介護分野の評価をするために,ヘルスサービスリサーチ(health services research:HSR)という研究分野はひとつのソリューションになる。本連載の第2回(☞No.5156参照)で記載のあった通り,HSRとは,「社会的要因,報酬体系,組織の構造とプロセス,医療の質とコスト,そして最終的には,健康やウェルビーイングへの影響を科学的に探究する学際的な研究分野」と定義される。ウェルビーイングに影響する,介護の質や介護政策の評価など,まさにHSRの研究において解明されなくてはならないことは多い。

    本稿では,高齢者診療を通じて介護に接している実地臨床医家の方々に,介護のHSRとはどのようなものであるのか,そこで利用される介護情報とはどのようなものであるかを紹介する。

    2. 介護分野のHSR

    介護分野のHSRは,医学研究と比べるとその数はきわめて少ないが,近年徐々に増えてきている。特に介護レセプトデータベースの整備や研究利用が進んだことから,介護サービスによる要介護度の変化や介護事業所の人員配置などをテーマにした研究が行われている。

    介護のHSRでは,医療の質の評価で用いられるDonabedianモデルを利用することも多い。Donabedianモデルは,米国の医師・公衆衛生学者であるAvedis Donabedianが1980年に提唱した医療の質評価のモデルで,①ストラクチャー(構造),②プロセス(過程),③アウトカム(結果),の3要素にわけてアプローチする方法である。介護報酬では,①のストラクチャーでは人員配置など施設特性,②のプロセスでは介護サービスの実施内容,③のアウトカムでは利用者の要介護度変化,などのように考えることが多い(表1)。

     

    HSRでは,要介護度悪化をアウトカムととらえ,その施設特性(職員数や定員など)のストラクチャー指標や,口腔ケア・褥創予防などのプロセス指標との関連について研究される。ストラクチャー・プロセスについては,特に介護報酬の加算などでは,施設やサービスに要件が設定されており介護政策の評価にも関連するため,介護報酬をストラクチャー・プロセスに落とし込んだ研究が行われる。

    たとえばJinら(2018)は,特別養護老人ホームにおいて,施設入居者を対象とした要介護度悪化(アウトカム)に関連する施設の特徴(ストラクチャー)を全国介護レセプトデータを用いて研究し,ユニット型の施設のほうが従来型の施設よりも要介護度が悪化しない可能性を示した1)。また,最近では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連のHSRとして,高齢者施設におけるCOVID-19の患者発生とその死亡者数について多くの研究が行われており,これらのシステマティックレビューでは,施設の規模が大きい(定員が多い)ほど施設内でのアウトブレイクの発生率が高いこと等が示されている2)

    介護保険制度については,介護分野のエビデンスが乏しい中で制度が開始され,高齢者も介護事業者も増えた現在,再評価すべき時期に来ている。介護保険制度下でのサービスに関する研究としては,Ishibashiらは要支援1の高齢者を対象に,通所リハビリテーションの利用者よりも訪問介護利用者のほうが要介護度の悪化率は低かったことを報告3)したものなどがある。これらの知見は,直ちに制度に反映されるものではないであろうが,学術的に正しいエビデンスを積み重ねていくことで,介護保険制度ではどのような基準が実際に効果があるのか,どのようなサービス提供体制が介護度悪化の予防に有効なのかなど,検討される上で大いに役立つであろう。

    このように介護分野のHSRは,Donabedianモデル等を用いてアウトカムと関連させた研究などを行い,介護の質,介護政策などのエビデンスを創出して,介護分野に貢献しようとしている。

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