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【識者の眼】「人生90年」武久洋三

No.5177 (2023年07月15日発行) P.64

武久洋三 (医療法人平成博愛会博愛記念病院理事長)

登録日: 2023-07-05

最終更新日: 2023-07-05

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私は徳島に住んでいる。四国の小さな県だが、県民の約6割が5大全国新聞以外の県内にのみ流通する新聞を読んでいる。その紙面には、人口の少ない県だからできるというか、徳島県内で死亡した人の氏名と年齢が掲載されている。そこで私は毎日その欄を見て、知り合いの名前を見つけることもある。

10年前は80歳代前後の人が断然多かったのに、近頃は90歳以上での死亡者が多くなり、80歳代以下での死亡者が減っている。たまに90歳以上の死亡者が7割以上なんて日もある。確かにいろいろな統計で平均死亡年齢が高くなっていると聞くものの、まさにその通りだと思う。人生80年と思ってきた日本であるが、こんなところを見ても人生90年になっているのだと気づかされる。

50歳前後の壮年期になると、癌、心臓病、脳血管疾患にかかる人も多くなり、死亡も増えてくる。治療により改善しても、80歳前後で死亡する人が多い。90歳以上となると、むしろ癌などの発病の割合が少なくなる傾向があり、各年齢時期のいろいろなリスクを通り抜けてきた、幸運で体力のある人たちである。

それにしても、超高齢化社会へまっしぐらという感じがある。医療環境や栄養・食事の改善、健康教育等いろいろな理由があるかもしれないが、もはや「人生80年」から「人生90年」どころか「人生100年」になる日も近いのではないか。100歳の人口が2025年には15万4000人になると言われている。元気で長生きする人が多くなるということは誠に喜ばしいことである。

一方、小児が極端に減っている。1950年では人口の35.4%であったのに、2023年では11.5%しかない。高齢者は、1950年に4.9%であったのに2023年にはなんと29.1%である。この超高齢化社会、喜んでよいのだろうか。国としての能力は確実に低下しているだろう。大学病院を含むすべての病院の入院患者も、もうすぐ65歳以上の高齢者が80%になる。ひょっとしたら政府は、高齢者の定義を70歳とか75歳以上にしたいのではないだろうか。

定年もまだ60歳のところも多いが、地方に行くとそんなことをしていたら働く人がいなくなってしまうのである。70歳くらいでは、高齢者の範疇には入れてやらないよ、「まだまだ働け」なんてことになる日も近いのではないか。「人生90年」となるといろいろなことが変わってくる感じがしている。

武久洋三(医療法人平成博愛会博愛記念病院理事長)[超高齢化社会]

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