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【識者の眼】「非感染性・慢性疾患の疫学者が語る『コロナ禍で見聞きした考え方』のみかた」鈴木貞夫

No.5173 (2023年06月17日発行) P.62

鈴木貞夫 (名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)

登録日: 2023-06-07

最終更新日: 2023-06-07

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新型コロナが5類へ移行して、新規感染者数や死亡者の報告がされなくなった。現時点では、新たな変異株や感染爆発の報道もなく、日常生活に平穏が戻ってきた。この機にこの3年余に出てきたいくつかの「考え方」について振り返ってみたい。思いつくままに書くだけでも以下のものがあった。

①は、個人的にコロナについて考えるきっかけとなったもので、最初に意識したのはFINANCIAL TIMESの「Japan was accused of not testing enough」という非難であった1)。このころ、コロナ感染が低い理由を「検査数を絞ったことで感染者を把握できていないから」という主張2)は多くあり、④、⑨などの主張につながった。しかし2020年に起きた現実は、見落としがたくさんあったのは欧米であり、軒並み平均寿命が大きく低下した。日本は19年より上昇するという例外的な動きを示した。

PCR検査の過大評価とその拡充を迫る声もたくさんあり、⑦、⑧などはその典型である。現実的にPCRを多く行った国でコロナ感染が少なかったとか、陰性者で経済を回したなどの証拠は出ていない。PCR検査については、日本公衆衛生協会の依頼でまとめを執筆したので、ぜひ読んでいただきたい3)。②、⑥は統計論文であるが、使用したモデルが間違っていたので指摘した。

ワクチンも効果(⑬)、実施(⑩、⑭)、副反応(⑮)など、様々な批判にさらされた。特に副反応は現在進行形の問題である。個々の副反応疑いの事例は、死亡を含めて、症例を精査しても因果関係がわかるものはごくわずかである。だから分析疫学調査による治験や市販後の調査が行われるのだが、市民の理解と科学の方法論に大きな乖離があり、報道も健康障害を伝えるだけで、「仕組み」をきちんと報道していない。③、⑤、⑪、⑫は事実と報道の間に齟齬があった事例である。

【文献】

1)FINANCIAL TIMES記事.(2020年3月11日)
https://www.ft.com/content/dd416102-5d20-11ea-b0ab-339c2307bcd4

2)東京新聞記事.(2020年4月3日)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/1359

3)鈴木貞夫:日本の検査の実施に関する教訓. 令和4年度地域保健総合推進事業 新型コロナウイルス感染症対応記録. 尾身茂, 他, 監. 日本公衆衛生協会, 2023, p.263-7.
http://www.jpha.or.jp/sub/topics/20230427_2.pdf

鈴木貞夫(名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)[新型コロナウイルス感染症]事実と報道の齟齬

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