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【識者の眼】「日本で重症熱性血小板減少症候群の流行が確認されて10年」西條政幸

No.5172 (2023年06月10日発行) P.61

西條政幸 (札幌市保健福祉局・医務・健康衛生担当局長、国立感染症研究所名誉所員)

登録日: 2023-06-02

最終更新日: 2023-06-02

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当欄で筆者は主に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行に関する記事を発表してきたが、今回は少し趣を変えて、重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome:SFTS)の流行と今後の対策のあり方について、COVID-19流行対策と関連づけて考察したい。

SFTSは、ブニヤウイルス目に分類されるダビエバンダウイルス(旧:SFTSウイルス)による感染症で、多くの場合ウイルスを有するダニに咬まれて感染する。SFTSは2011年にNEJM誌に致命率がとても高い新規ウイルス感染症として、中国の研究者等により初めて報告された。

日本では、2012年秋に海外渡航歴のない50歳代の女性が原因不明のまま亡くなり、その後の病理検査やウイルス学的検査により、SFTSにより死亡したことが判明した。日本でもSFTSが流行していることが明らかにされた瞬間であった。西日本を中心に毎年100名前後の患者が報告され、その4人に1人は死亡している。

エボラウイルス病やクリミア・コンゴ出血熱(Crimean-Congo hemorrhagic fever:CCHF)などのウイルス性出血熱に関する研究を続けてきた者としてSFTSをとらえると、SFTSはウイルス性出血熱に分類されるべき感染症である。流行地ではペットの犬や猫がSFTSウイルスに感染してSFTS様症状を呈し、その場合の致命率は人の患者のそれよりも高く、その上発症したこれらペットから人が感染してSFTSを発症し、死亡する事例すら報告されている。ペットから感染してSFTSを発症する事例は、一般に予想されている以上に多いのではないかと推察している。

SFTSを発症して死亡したことが日本で初めて確認され、公表されてから、ちょうど10年が経過した。筆者は、この10年間の経過、研究成果に関する総説を国立感染症研究所が刊行しているJJID誌に発表した。オープンアクセスなので是非参照して頂きたい。

SFTSは中国、日本、韓国だけでなく、ベトナムやタイでも流行が確認されており、アジアに広く分布する。SFTSの病原体は動物由来ウイルスであり、自然界に存在する。それだけにウイルスを根絶させることは不可能であり、流行は今後も続く。

SFTSに対して、ダニに咬まれないように気をつける、病気のペットにむやみに触れない等といった注意喚起に、感染予防対策としての効果があるとは思えない。流行対策においては、感染予防のために何を求めるのかではなく、何を提供できるのかが重要である。SFTSに対する抗ウイルス薬やワクチンが提供できるようにすることが私たちの責務である。COVID-19のような大規模流行に適切に対応できるようになるには、SFTSのような相対的に流行の小さな感染症であっても、致命率の高く、国内で流行している感染症に適切に対応し、かつ、そのような経験の積み重ねが必要だと、日頃から考えている。

西條政幸(札幌市保健福祉局・医務・健康衛生担当局長、国立感染症研究所名誉所員)[ウイルス性出血熱][流行対策]

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