グラム陰性桿菌であるペスト菌(Yersinia pestis)による全身感染症であり,感染経路,発症様式から大きく腺ペスト,肺ペスト,敗血症性ペストにわけられる1)。
病型ごとに異なり,腺ペストはダニに刺された部位の所属リンパ節腫脹,疼痛を伴う高熱と全身倦怠感,頭痛が出現する。肺ペストは高熱と急速に進行する呼吸困難,血痰があり,数日の経過で死亡する。敗血症性ペストは敗血症に合併して,髄膜炎を起こすことがある。
確定診断は血液,喀痰,リンパ節吸引検体などの臨床検体からのY. pestisの検出である。
1類感染症に指定されており,疑似症例・確定症例は,特定感染症指定医療機関もしくは第一種感染症指定医療機関における感染症指定病床での診療を行う。腺ペストもしくは敗血症性ペストのみの場合は標準予防策でよく,穿刺吸引検体や血液への曝露に注意が必要である。肺ペストに対しては空気感染対策をとる。病型が不明な場合は,肺ペストを合併しているものとして,空気感染対策をとる。
最も報告の多い腺ペストは,自然宿主である齧歯類から吸血したノミに刺されることで感染する。肺ペストは,肺ペストに罹患した患者や,ペストで死亡した動物から飛沫感染する。また,医療関連曝露として,肺ペスト患者への気管内操作時のエアロゾルの発生,血液・リンパ節穿刺に伴う針刺しなどの血液曝露,検査室での培養検体からの検査室曝露が問題となる。肺ペストのアウトブレイクは,バイオテロの可能性がある。肺ペストに対する空気感染予防策は,以下の条件を両方満たした場合に解除とする。
①適切な抗菌薬治療開始から48時間後
②喀痰グラム染色での菌体の消失の確認
病型が不明な場合は,肺ペストを合併しているものとして,空気感染対策をとる。アミノグリコシド系,テトラサイクリン系,ニューキノロン系抗菌薬が選択肢となるが,アミノグリコシド系抗菌薬以外はヒトでの治療報告が少なく,信頼性に劣る。
残り917文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する