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デング熱[私の治療]

No.5167 (2023年05月06日発行) P.51

吉澤定子 (東邦大学医学部臨床検査医学講座/微生物・感染症学講座准教授)

登録日: 2023-05-05

最終更新日: 2023-05-01

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  • デングウイルスは,フラビウイルス科に属する一本鎖プラス鎖RNAウイルスで,熱帯・亜熱帯地方(アジア・オセアニア・中南米)に広く分布する。デングウイルスに感染した蚊(ネッタイシマカやヒトスジシマカ)の刺咬により感染するが,日本における媒介蚊はヒトスジシマカで,本州から四国,九州,沖縄,小笠原諸島まで広く分布している。デングウイルスには血清型の異なる4つの型(1・2・3・4型)が存在する。罹患したウイルス型に対しては終生免疫が獲得されるが,他の血清型に対する交叉防御免疫は数カ月で消失し,他の型には感染する。不顕性感染も多いとされるが,発症する場合は,蚊に刺されてから3〜7日の潜伏期間の後,急性の熱性疾患であるデング熱を発症し,ほとんどの症例では1週間ほどで回復する。稀に,発熱が終わり平熱に戻りかけたときに,突然血漿漏出と出血傾向を発症し,しばしばショック症状となるデング出血熱を発症することがある。デング出血熱発症の一因として,2度目の別の型への感染時に重症化することが示唆されている。ヒトからヒトへの感染はなく,輸入感染症として発症するが,近年国内でアウトブレイクした事例がある。

    ▶診断のポイント 

    熱帯・亜熱帯地域への渡航歴がある発熱患者の鑑別診断としては,マラリア,腸チフス,デング熱が,3大疾患であるが,デング熱の頻度が最も高く,他の2疾患より潜伏期が短い。腸チフス鑑別目的として血液培養,マラリア鑑別目的として血液塗抹検査(±イムノクロマト法検査)の実施を考慮する。その他の鑑別疾患として,チクングニア熱,ジカウイルス感染症のほか,麻疹,風疹,インフルエンザ,レプトスピラ症,伝染性紅斑,伝染性単核球症,リケッチア症,性的活動性がある場合はHIVの急性期感染も念頭に置く。

    発熱に加えて,以下のうち2つがある場合にデング熱を強く疑う。①悪心・嘔吐,発疹,頭痛・眼痛,筋肉痛・関節痛,リンパ節腫脹,②タニケットテスト陽性(上腕に駆血帯を巻き,収縮期血圧と拡張期血圧の中間の圧で5分間圧迫を続け,圧迫終了後に2.5cm×2.5cm当たり10以上の点状出血がみられた場合に陽性と判定)。特に,眼の奥の痛み,タニケットテスト陽性所見は意義が大きい。

    以下のいずれかを満たした場合,デング熱と確定診断される。ウイルス分離(全血・血清・血漿・尿),RT-PCR法によるウイルス遺伝子の検出(全血・血清・血漿・尿),ウイルス非構造蛋白(NS1)抗原の検出(血清),特異的IgM抗体の検出(血清),中和抗体の検出(血清,ペア血清での抗体陽転化・抗体価の有意な上昇)。全血または血清中のデングウイルス NS1抗原,抗デングウイルス IgG抗体および抗デングウイルス IgM抗体の検出を可能とするイムノクロマト法が近年では利用可能であり,特異性もそれほど低くなく,早期診断に有用である。

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