医療分野で患者情報やAI技術の利活用は今後急速に進むだろう。国の施策としての医療DXを改めて整理し、識者の論点から見えてくる課題を検証してみる。 (編集部)
「経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針)2022」(2022年6月7日)(https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2022/2022_basicpolicies_ja.pdf)で列挙された医療DX関連の施策は(1)全国医療情報プラットフォームの創設、(2)電子カルテ情報の標準化等、(3)診療報酬改定DX─の3点。これを行政と医療界、医学界、産業界が「一丸となって進める」とされた。
昨年10月には政府の医療DX対策本部が発足、今年6月の骨太方針の前に「医療DXの推進に関する工程表」を決定する運びとなっている。
今年3月8日にはその骨子が公表された(https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000250052)。主なポイントは以下の通り。
○2024年秋の健康保険証の廃止を目指す
○生活保護(医療扶助)でのオンライン資格確認を2023年度中に導入
○電子カルテ情報共有サービスを構築し、3文書・6情報の共有から順次対象を拡大
○検査結果はPHRとして患者本人がマイナポータルを通じて確認できる仕組みを構築
○標準規格に準拠したクラウドベースの電子カルテを整備
○自治体、介護事業者と情報共有できる仕組みを構築(予防接種、介護保険など)
○診療報酬の算定・患者の窓口負担計算のための共通算定モジュールの開発・提供
○標準型電子カルテの提供で医療機関のシステムを抜本的にシステムモダン化
○全国医療情報プラットフォーム、診療報酬改定DXの業務を担う実施主体として、既存の組織に機能を追加することを念頭に速やかに検討し、措置
医療DXの成否の鍵は電子カルテ情報共有サービスの構築にある。1980年代以来、数十年にわたり標準化が実現できなかったわが国の電子カルテ・レセプト電算処理システムが、今回は標準化できるのか。しかしその推進体制は、工程表骨子でははっきりしない。
サイバーセキュリティ対策は、工程表骨子に文言は見当たらないものの、全国医療情報ネットワークを安全な情報インフラとするためには欠かすことのできない視点である。大規模通信障害への対応なども含め、医療機関への支援策や国としての体制が求められる。
マイナンバーカードと健康保険証の一体化問題も、医療DXの“躓きの石”としてはならない。様々な事情でマイナンバーカードを持てない住民への対応が進められていると聞くが、健康保険証の廃止が被保険者の受診機会を奪ってはならない。医療機関に課せられたオンライン資格確認の義務化は無効であるとの訴訟の行方も、注視していく必要がある。