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乳糖不耐症[私の治療]

No.5166 (2023年04月29日発行) P.56

竹内一朗 (国立成育医療研究センター小児内科系専門診療部消化器科)

登録日: 2023-04-26

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  • 吸収不良症候群のひとつである乳糖不耐症は,ミルクや食物に含まれる乳糖を消化・吸収できず,下痢や腹部膨満といった消化器症状を引き起こす疾患である1)。乳糖をグルコースとガラクトースに分解するラクターゼの先天性欠損や二次性の活性低下が原因であり,乳児から成人まで幅広い年代に発症しうるが,一般小児科診療ではウイルス性胃腸炎後などに生じる二次性乳糖不耐症の頻度が高い。

    先天性乳糖不耐症:LCT遺伝子の異常によって発症する常染色体潜性(劣性)遺伝形式の稀な先天性疾患である。ラクターゼが欠損するため,新生児期から乳糖摂取後に重症下痢を発症し,治療である乳糖除去を生涯にわたり必要とする。先天性乳糖不耐症では,高カルシウム血症や腎髄質石灰化症を多く合併することが知られている2)

    二次性乳糖不耐症:ラクターゼは小腸の微絨毛に存在するため,広範な粘膜障害や小腸切除が原因となり,二次性乳糖不耐症を発症する。化学療法中や炎症性腸疾患に伴い発症することもあるが,健常小児ではウイルス性胃腸炎が原因となることが最も多い。原疾患の改善に合わせて乳糖不耐症も改善するため症状は一過性であるが,消化器症状が数カ月持続することもある。

    ▶診断のポイント

    【病態・症状】

    乳糖を摂取してから数時間以内に腹痛・下痢が生じることが多い。分解・吸収されなかった乳糖が大腸に至ると消化管内の浸透圧が上昇し,浸透圧性下痢が生じる。また,腸内細菌の嫌気代謝によって産生されたガスが腹部膨満の原因となる。重症例では脱水や体重増加不良に陥ることもある。

    【診断】

    新生児期から難治性下痢を発症し,体重増加不良・成長障害を生じる重症例では,他のcongenital diarrhea and enteropathiesとともに先天性乳糖不耐症を鑑別に挙げて精査する3)。生来健康な小児で胃腸炎後に下痢が持続し,特に乳製品の摂取後に増悪すれば二次性乳糖不耐症が疑われ,乳糖除去により症状が改善するかどうかを観察する。乳糖除去と比較してβ-ガラクトシダーゼ製剤の効果は確実でないため,母乳栄養の中止が母親の身体的・精神的負担になることに考慮しながらも,短期間の無乳糖調整粉乳への切り替えを検討することもある。

    乳糖不耐症の重症度評価や,他の慢性消化管疾患を鑑別するために,必要に応じて採血検査を行い,脱水や栄養状態,慢性炎症の有無などを評価する。便検査所見はosmotic gapの開大や酸性便を呈するが,乳糖不耐症に特異的な所見ではないため,他疾患を否定することにはならない。便中還元糖検出試験であるクリニテストは,2012年から試薬の製造が中止されており,その他の検査として乳糖負荷前後で呼気中水素濃度を測定する水素呼気試験(保険未収載)や血糖を測定する乳糖負荷試験などが挙げられる。

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