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【識者の眼】「宿日直の違法運用に勤務医は対抗を」榎木英介

No.5164 (2023年04月15日発行) P.58

榎木英介 (一般社団法人科学・政策と社会研究室代表理事)

登録日: 2023-04-05

最終更新日: 2023-04-05

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今回は全国医師連盟の代表として「宿日直」の問題点を指摘したい。

日本の医療機関では、夜間を含めた時間外労働を労働時間に入れないため、いわば「労働時間偽装」として「宿日直」を用いてきた。こうしたなか、2019年に労働基準法が改正され、勤務医の労働時間の上限が2024年から規制されることになったのはご存じのことと思う。この改正により、医療機関で働く医師たちは、より健康的な労働環境を求めることができるようになった。

医師の働き方改革を推進するため、医療機関は「労働時間の把握」「時間外労働時間の短縮」から始めており、可能な施設では宿日直許可を申請するようになった。宿日直は「原則として通常業務から解放されたもの」とされ、実労働時間に対して時間外割増手当が支払われることが再確認されている。

しかし、宿日直許可が得られたことをもって、今まで通り、すべての部署、すべての時間外を宿日直扱いにする「違法運用病院」が出てくるものと思われる。こうした状況に、勤務医は主体的に対抗していかなければならない。

まず、各施設での宿日直許可の詳細を確認し、宿日直と夜勤の区別を明らかにすることが必要だ。実労働時間に対して時間外労働手当と代替休息を求めなければならない。自己研鑽と時間外労働の違いについて確認、理解することも重要だ。

違法労働が生じた場合、勤務医は社会保険労務士、弁護士、労働基準監督署(労基署)に相談し、さらに裁判所の判断を仰ぐべきだ。実労働時間の記録を残すことで、過去3年間分の時間外手当を退職時に請求することが可能だ。時間外手当を請求することは、金銭のためだけではない。勤務医の心身の健康を守り、次世代の医師たちを守るためにも重要なのだ。

そしてより良い勤務環境の施設があれば異動すべきだ。これにより結果的に医療施設が集約され、地域医療の質が向上する可能性がある。働き方改革実現の鍵は、勤務医自身が握っているのである。全国医師連盟では、注意すべき点をリストにしたのでご活用いただきたい。

【参考文献】

▶厚生労働省:医師の宿日直許可基準・研鑚に係る労働時間に関する通達, 第1回医師の働き方改革の推進に関する検討会 参考資料3, 2019年7月5日. 
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000526011.pdf

榎木英介(一般社団法人科学・政策と社会研究室代表理事)[医師の働き方改革][実労働時間][時間外労働手当]

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