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【識者の眼】「医療者を惑わす医療事故調査・支援センター主催研修」小田原良治

No.5163 (2023年04月08日発行) P.58

小田原良治 (日本医療法人協会常務理事・医療安全部会長、医療法人尚愛会理事長)

登録日: 2023-03-28

最終更新日: 2023-03-28

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第3回医療事故調査・支援センター主催研修(2022年12月3日開催)で使用された資料「医療事故調査制度の現況─中小規模の医療機関の医療事故の特徴─」1)には医療者を惑わす記載がある。「当該医療機関における、『医療事故』の判断」という1枚のスライドの中に示された「『医療事故』の定義」図と「『医療事故』の判断」フローチャートの2カ所で、事実誤認とも言うべき大きな問題が存在している。

「『医療事故』の定義」図は、「医療事故調査制度の施行に係る検討会とりまとめ」及び厚生労働省Q&Aの「『医療事故』の定義」図と微妙に異なっている。要件の文言の変容のみでなく、図の『医療事故』の部分に「疑いを含む」との記載がある。これでは『医療事故』疑いが報告対象のように誤解されてしまう。正しくは、「医療起因性要件に疑い例も含む」のであって、報告すべき『医療事故』に疑い例を含むということではない。『医療に起因(疑い含む)する死亡』要件と『予期しなかった死亡』要件の両要件を共に満たすものを『医療事故』と法的に定義したのである。

一方、「『医療事故』の判断」フローチャートは完全な間違いである。一見してわかるようにこのフローチャートには『予期しなかった死亡』要件の入り口がない。この研修会のフローチャートをポンチ絵にすると、第2回「医療事故調査制度の施行に係る検討会」事前配布資料の中にあった図(拙著「まぼろしの図」2))と同一となる。この図は、筆者らが間違いを指摘した結果、検討会前日に急遽削除されたものである。厚生労働省は、間違いを修正し、改めて「『医療事故』の定義」図 3)4)を提示したのである。

医療事故調査制度の報告対象事案である『医療事故』とは、『医療に起因する』死亡要件と『予期しなかった死亡』要件をそれぞれ別途独立して検討し、『医療に起因する』死亡要件と『予期しなかった死亡』要件の両要件を共に満たす事案である。これを法的に『医療事故』と定義した。『予期しなかった死亡』要件は省令で第1号から第3号まで明確に規定されたが、『医療に起因する』死亡要件は法的に規定することが困難なため、省令では規定せず、通知でも「判断の支援のための考え方」を示すにとどまり、管理者が判断するものとされたのである。

【文献】

1)第3回医療事故調査・支援センター主催研修:医療事故調査制度の現況─中小規模の医療機関の医療事故の特徴─, 2022年12月3日.
https://amarys-jtb.jp/NOZData/Img/FileUp/Honban/Upload/13607/%E3%80%90%E6%9C%A8%E6%9D%91%E5%85%88%E7%94%9F1125%E4%BA%8B%E5%89%8D%E6%8E%B2%E8%BC%89%E4%BE%9D%E9%A0%BC%E7%94%A8%E3%80%912022.12.3.%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%BC%E4%B8%BB%E5%82%AC%E7%A0%94%E4%BF%AE.pdf

2)小田原良治:未来の医師を救う医療事故調査制度とは何か. 幻冬舎, 2018, p133-73.

3)医療事故調査制度の施行に係る検討会:医療事故調査制度の施行に係る検討について. 2015年3月20日.
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000078773.pdf

4)厚生労働省:医療事故調査制度に関するQ&A. 2015年5月25日(2015年9月28日更新).
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000098699.pdf

小田原良治(日本医療法人協会常務理事・医療安全部会長、医療法人尚愛会理事長)[「医療事故」の定義]

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