株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

【識者の眼】「フェムテックと『女性活躍』」渡部麻衣子

No.5159 (2023年03月11日発行) P.60

渡部麻衣子 (自治医科大学医学部総合教育部門倫理学教室講師)

登録日: 2023-02-27

最終更新日: 2023-02-27

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

今回から、本コラムを担当させて頂きます渡部麻衣子です。自治医科大学で倫理学を担当しています。どうぞよろしくお願いいたします。

普段、大学では医学生と看護学生に医療倫理の基礎を教えていますが、専門は科学技術社会論と呼ばれる、科学技術と社会の関係性を考察する、科学社会学や科学史等から派生した超領域的分野です。昨年からは、「フェムテック」をめぐる法的倫理的社会的課題を検討する調査研究に関わっています1)

「フェムテック」は、「女性の身体的課題を解決するための技術」を指す造語です。この言葉は、2012年にドイツで月経周期管理アプリを開発した女性起業家のIda Tinによって作られました。Tinが言葉を作った理由は、当時はまだ、月経を対象とする事業に投資家の関心が集まりにくかったためで、「女性の身体的課題を解決する技術」を示す言葉によって、未開拓の市場の存在を印象付けようとしたのでした。その目論見は成功し、市場規模の拡大を見越して参入する企業も増加しています。日本でも最近よく聞く言葉なので耳にされたことのある読者もいらっしゃるかもしれません。

日本では特に、国の指針に「フェムテックの推進」2)という文言が盛り込まれるなど、国をあげて推進される領域となっています。そこには、「フェムテック」が、「女性活躍推進」という国の目標に寄与するという期待があります。女性が出産育児を理由として離職する傾向のあることはよく知られ、予防策がとられてきました。しかし出産育児以外にも、女性の多くが、月経や更年期の症状のために作業能率の低下を経験することが、政府の調査によって明らかになり、女性の身体的課題に対処する必要に注目が集まっているのです。このように、労働政策の文脈で女性の身体に対する関心が高まる中で、「フェムテック」が注目されていることは、日本特有の状況ではないかと考えています。

フェムテックには月経周期管理からセクシャルウェルネスまで、多岐にわたる製品が含まれますが、課題は安全性、信頼性の担保です。日本は、女性医師の割合が残念ながらOECD加盟国中最下位3)です。「フェムテック」を女性医師の持続的な就労にも役立たせることはできるでしょうか。働き方改革と両輪で、医学の専門家も交えて議論を続ける必要があります。

【文献】

1)国立研究開発法人科学技術振興機構社会技術研究開発センター:2022年度新規採択プロジェクト決定.
https://www.jst.go.jp/ristex/info/press/20220930_01.html

2)内閣府:経済財政運営と改革の基本方針2021.

3)厚生労働省:女性医師に関する現状と国における支援策について.
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000054006.pdf

渡部麻衣子(自治医科大学医学部総合教育部門倫理学教室講師)[フェムテック][女性医師の持続的な就労]

ご意見・ご感想はこちらより

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

関連物件情報

もっと見る

page top