株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

【識者の眼】「相談支援センターの利用が広がるように」天野慎介

No.5158 (2023年03月04日発行) P.62

天野慎介 (一般社団法人全国がん患者団体連合会理事長)

登録日: 2023-02-17

最終更新日: 2023-02-17

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

今から10年ほど前のことだが、妻が脳梗塞で倒れて大学病院に救急搬送された。主治医をはじめ医療スタッフの治療や看護のおかげで、妻は比較的少ない後遺症で退院することができた一方で、家族や患者本人としては、退院後の生活について相談したいと思っていたが特に紹介もないので、私のほうから「ソーシャルワーカーに相談したい」と看護師に申し出た。

たとえばがん領域では医師や看護師の他に、医療ソーシャルワーカー、公認心理師、理学療法士、管理栄養士、最近では就労支援を行う社会保険労務士など、多様な職種によるチーム医療が行われている。私はがん患者の支援活動に関わっているので、病院でどのような職種がどのような支援を行っているのかを知っていたが、一般の患者や家族は必ずしも知識があるわけではない。

がんや致死的な疾患と向き合う患者や家族は、精神心理的なプレッシャーを感じながら意思決定を行っているので、必ずしも「合理的な」意思決定ができるというわけではない。私自身ががん治療を行っているときも自身の悩みについて、自ら課題解決を行うというよりは、「手放す」「逃げる」という方向に向かいがちであったから、意思決定支援のサポートが当時あればどれだけ助かっただろうと思う。

がん対策では、がん診療連携拠点病院に「がん相談支援センター」が設置されている。がん相談支援センターはかねてより「相談した患者の満足度は高いが、認知度は低い」という傾向があると指摘されてきた。がん患者を対象に行われた国の「患者体験調査」(2018年度)では、「がん相談支援センターを知っている」と回答した患者は66.4%、「がん相談支援センターを利用したことがある」と回答した患者は14.4%であった。

静岡県立静岡がんセンターではかねてより初診患者に対して、院内のオリエンテーションや相談支援体制、そして患者が抱える悩みについてのビデオを視聴してもらい、さらに看護師が患者の悩みや苦痛に関するスクリーニングを行った後に、主治医の診察を受けるという体制をとってきた。

昨年8月に改定されたがん診療連携拠点病院の整備指針では、このような取り組みを念頭に、「外来初診時から治療開始までを目処に、がん患者及びその家族が必ず一度はがん相談支援センターを訪問することができる体制を整備することが望ましい」とされた。患者の精神心理的、社会的な苦痛の軽減に向けて、この種の取り組みが拡がることが期待される。

天野慎介(一般社団法人全国がん患者団体連合会理事長)[患者の意思決定支援][がん相談支援センター]

ご意見・ご感想はこちらより

関連記事・論文

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top