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【識者の眼】「5類の後の世界」岩田健太郎

No.5154 (2023年02月04日発行) P.68

岩田健太郎 (神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)

登録日: 2023-01-24

最終更新日: 2023-01-24

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2類が5類になりました。とはいえ、そもそも2類は2類じゃない。指定医療機関なんてガン無視だし、入院勧告なんてもはややってないし、全数報告もしていない。こんなの全然、2類じゃない。ニセ2類だ。

5類になったからといって、大きな変化が生じるわけじゃない。入院が必要なら入院はするだろうし、報告する点では2類と同じだ。いきなり高額なコロナの薬を3割負担、というのは現実的じゃないから、どのみち公費負担は継続される。こちらも5類のふりをした、ニセ5類だ。

ニセ2類からニセ5類になっても、医療現場は大きくは変わらない。おそらく一番困るのは救急隊とその周辺だろう。コロナ診療の空床補填はなされなくなり、感染防御に人的、金銭的コストのかかるコロナの診療を断る医療機関は変わらず多いことが予想される。「5類にすれば全医療機関がコロナの診療」は幻想に過ぎない。開業医でコロナと診断してもすぐに病院に紹介されたりするだろうし、老健施設でコロナが見つかるとそこからすぐ救急車を呼んで、という事例も多いだろう。保健所の調整機能がないままでは指定医療機関の救急担当医は各所からの受け入れ要請で忙殺されるだろう。聞くところによると千葉県では保健所の調整機能を5類以降も維持するそうだ。そういう意味でもニセ5類なのであり、結局、医療現場は大きくは変わらないのである(悪くなることはあっても)。

5類になっても病院の感染対策を安売りできるわけではない。感染した医療者、濃厚接触した医療者もそのまま勤務させ続けるつもりだろうか。院内感染のリスクは上等、というならば、医療訴訟のリスクヘッジは政治的にやっておかねばならぬ。「病院にかかることは、感染のリスクを引き受けること」という「新しい常識」を患者サイドに提供せねばならないかもしれない。まあ、「病院にかかることは、感染リスクを」は実は以前からそうだったんだけど。

ニセ2類がニセ5類になったからといって、コロナの諸問題が消失するわけではない。見ないふりをするだけだ。僕は昔っから「安全・安心」というスローガンが大嫌いだが、「安全」以上に上乗せする「安心」なんてない。「安全」ならば「安心」がもたらされるし、「安全」でない場合は不安になるべきなのだ。「安全」のないところに上乗せされた「安心」は幻想以外の何者でもない。コロナに疲れた人たちは現実世界を忘れ、夢の世界でその幻想を欲しているのかもしれないけれど。

岩田健太郎(神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)[新型コロナウイルス感染症]

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