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【識者の眼】「真に『使える』福祉・社会保障のために」山下慎一

No.5154 (2023年02月04日発行) P.74

山下慎一 (福岡大学法学部教授)

登録日: 2023-01-17

最終更新日: 2023-01-17

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はじめまして。福岡大学で「社会保障法」という学問を専攻しております、山下慎一と申します。公的医療保険や公的年金、労災保険、介護保険といった福祉・社会保障のしくみを、法律学(法的な権利と義務)の観点から研究しています。どうぞよろしくお願いいたします。

初回ということで、自己紹介も兼ねて研究テーマを紹介させて頂きます。私は、九州大学法学部を卒業し、同大学の法科大学院(ロースクール)に進学しました。サッカーが大の趣味なので、弁護士になってサッカー界で仕事をしたいと考えていたのですが、ロースクールで笠木映里先生(現・東京大学法学部教授)の講義を受けて、社会保障法研究の道に方針転換をしました。九州大学大学院の博士後期課程では、笠木先生のご指導のもと、「どうすれば社会保障の権利を誰もが使いやすくなるか」という研究関心で、イギリスの社会保障における不服申立てのしくみをテーマに博士論文を書きました。

結局のところ、医療や年金、福祉などについての「法的な権利」が存在しても、必要なときには誰もがそれを「使える」状態でなければ、その権利は絵に描いた餅です。ただ、そもそも社会保障のしくみは複雑すぎて、どのような給付が自分に適しているかを知ることすら困難です。実は私自身も、祖母が認知症になって介護保険を使うという時に、利用料の減額のしくみを十分把握しておらず、恥ずかしながら、本来支払う必要のなかった金額を長年にわたって家族で支出してきました。この苦い経験をもとに、日本の社会保障のしくみを誰もが理解でき、自らの権利を使いこなせるようにという願いを込めて、イラストとフローチャートで説明する『社会保障のトリセツ』(弘文堂、2022年)という本を書きましたhttps://www.koubundou.co.jp/book/b608612.html)。

読者の皆さまも、福祉や社会保障のしくみが複雑すぎると感じられたことはありませんか? 次回からは、「制度をきちんと説明してもらえなかったから損をした」と主張する利用者が起こした裁判をいくつか紹介した上で、医学・医療界との関連を検討したいと思います。どうぞご期待ください。

山下慎一(福岡大学法学部教授)[福祉社会保障法律学情報提供の義務利用者目線]

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