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【識者の眼】「Performance Status 4への化学療法」西 智弘

No.5153 (2023年01月28日発行) P.64

西 智弘 (川崎市立井田病院腫瘍内科/緩和ケア内科)

登録日: 2023-01-13

最終更新日: 2023-01-13

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一般的に、Performance Status(PS) 4(ほぼ寝たきり)の状態のがん患者に対し、化学療法を行う適応はないとされ、「緩和ケアができる病院へ転院してください」と告げられることがほとんどである。

しかし、緩和ケア医はそういった患者について「わかりました、では病棟で最期まで看ましょう」と単純に引き受けるのではなく、「本当にこの患者には積極的治療の手はないのか」と再評価する視点が必要である。

ある事例を紹介しよう。70代男性の大腸癌患者が、あるとき緩和ケア科に紹介された。診断からまだ2カ月程度だったが、腹膜播種が広がり、食事も摂れないその方はやせ細り、ベッドから動けない状態だった。前医では、「PS不良で化学療法適応なし、予後1〜2カ月」とされて放置状態であったという。しかし、緩和ケア科にて疼痛管理や支持療法を適切に行ったところ、患者は少し食事も摂れ、体も起こせるくらいになった。そこで改めて腫瘍内科医に相談したところ、「患者が望むなら、やってみましょうか」と請け負ってくれ、患者・家族と面談した結果、化学療法が始まることとなった。

そして、治療を開始してから2週間ほどから患者の状態はめきめきと改善し、オピオイドも使わなくなった。

約2カ月後には歩いて退院し、その後も外来で化学療法を続けて5年、完全寛解となったその患者は化学療法から卒業した……。個人情報に配慮しつつ改変はしているものの、これは実際に存在する事例である。

ちろん、このようにうまくいく事例ばかりではない。正確にデータは取ったことはないが、化学療法でPS3以上が改善して退院可能となるのは体感では4割くらいだろうか(がん種にもよる)。しかし、逆に言えば4割の方で「余命1カ月」が改善し、事例のように完全寛解まで至る例もあることは、知られていても良いだろう。前回の「QOL×時間を最大化する」(No.5147)でも取り上げたことだが、見込みの薄い延命が避けられるようになっていった一方で、今度は早めに諦めすぎる医療者が多いことが目につくようになってきていると感じている。

西 智弘(川崎市立井田病院腫瘍内科/緩和ケア内科)[緩和ケア]

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