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【識者の眼】「かかりつけ医の制度化とICT」土屋淳郎

No.5152 (2023年01月21日発行) P.58

土屋淳郎 (医療法人社団創成会土屋医院院長、全国医療介護連携ネットワーク研究会会長)

登録日: 2023-01-11

最終更新日: 2023-01-11

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昨年末に、「かかりつけ医の制度化」を政府がめざすという報道があった。かかりつけ医は超高齢社会に対する地域包括ケアシステムの構築といった観点からもその役割は重要であると言われており、筆者もかかりつけ医および地域包括ケアシステムにおけるICTの利用を主なテーマとしてこのコラムを書いているため、非常に興味のある内容ではあるのだが、なんだかもやもやする感じが否めない。

「かかりつけ医の制度化」の議論のきっかけはコロナ禍における発熱患者の受診困難であったとされ、これに対して財務省の諮問機関は、かかりつけ医を認定し患者が登録する仕組みを提案している。なぜ財務省なのかと言えば、数十年前から医療費削減のために行われている「家庭医」「かかりつけ医」の議論と関連しているからだと筆者は理解している。

そもそもコロナ禍における受診困難はかかりつけ医だけの問題なのだろうか? 普段行っている一般外来、在宅医療、健康診断にコロナ対策が加わり、ワクチン接種ではその供給体制の不備で振り回されても休みを返上して行っている。また、診療時間を割いてまたは拡張して行っている感染外来や、自宅療養者/クラスター施設への往診など、かかりつけ医は疲弊しながらも精一杯対応しているし、むしろ政府に振り回されている側という気持ちもある。

一方で、医療費削減が重要な課題であることも認識している。今回の議論で財政審や健保連が主張するように、患者情報の一元管理によって薬の重複処方や過度なもしくは無駄な検査を省くことができれば医療費を削減できるだろうと考える。しかし患者情報の一元管理に必要なのは、かかりつけ医の制度化というより“適切な”ICT化なのではないだろうか。そのためにオンライン資格確認をベースとした「全国医療情報プラットフォーム」を創設し、診療情報や電子処方箋などの情報が共有される仕組みを検討しているのではないのだろうか。

「かかりつけ医の制度化」というワードでつなぐ安易なロジックだけでは、コロナ禍における受診困難と医療費削減は解決しないだろう。もちろん、それらすべてをICT化で解決できるとも考えてはいないが、かかりつけ医の制度化には適切なICT利用は欠かせない。今後の「かかりつけ医の制度化」の議論が適切な方向に進んでいくよう心から願っている。

土屋淳郎(医療法人社団創成会土屋医院院長、全国医療介護連携ネットワーク研究会会長)[新型コロナウイルス感染症]

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