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【識者の眼】「地球温暖化ではなく、世界共通の『気候変動』を使おう」中村安秀

No.5152 (2023年01月21日発行) P.59

中村安秀 (公益社団法人日本WHO協会理事長)

登録日: 2023-01-05

最終更新日: 2023-01-05

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2022年12月は日本各地で記録的な大雪に見舞われた。一方、気象庁の発表によると、2022年6〜8月の夏の平均気温は、1898年の統計開始以来、2番目に暑い夏だったという。記録的な暑さと寒さを経験することが、決して珍しくない状況が続いている。猛暑による熱中症だけでなく、寒さによるヒートショックも大きな健康リスクとして注目を集めている。

日本では、1998年に「地球温暖化対策の推進に関する法律」が公布された。「大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させ地球温暖化を防止することが人類共通の課題」と謳い、温室効果ガスの排出量の削減などの措置を講じることを目的に掲げている。日本では法律に則り、「地球温暖化」という言葉がメディアなどを含め日常よく使われている。

しかし、世界では、COP27(国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議)をはじめとする国際会議の場でも、科学的研究の国際的な専門家が集う「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」でも「気候変動(Climate Change)」を使っている。気候変動は、気温の上昇だけではない。深刻な干ばつ、水不足、大規模火災、海面上昇、洪水、極地の氷の融解、壊滅的な暴風雨、生物多様性の減少、などが挙げられる。気温上昇だけを近視眼的に注視するのではなく、地球全体の気温や気象パターンの長期的な変化に注目しているのである。

日本とマレーシアの小学生にボルネオゾウに焦点をあてた生物多様性に関する環境教育をオンラインで行ったNPOから話を聞いた。日本語とマレー語の共通テキスト作成時に、日本では「地球温暖化」としていたが、マレーシア側から「気候変動を使うべき」と言われたという。日本では、「地球温暖化対策」という法律があるので、小学校の教科書では地球温暖化という用語を使わざるをえない。地球温暖化を理解していれば、気候変動という包括的な概念を知らなくても、日本国内では生きていける。しかし、やがて日本の子どもたちが世界から孤立していくのではないかと危惧する。

1998年時点で「地球温暖化対策」の法律を公布したのは間違っていなかった。ただ、世界の潮流は速やかに変化していき、今やプラネタリーヘルスが大きなうねりとなっている。次世代を担う子どもたちのためにも、地球温暖化ではなく、気候変動対策に主眼を置いた法律へのバージョンアップが不可欠である。そして、「気候変動」という世界共通用語を使い、地球の健康について世代を超えて議論していきたい。

中村安秀(公益社団法人日本WHO協会理事長)[SDGs][健康リスク]

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