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【識者の眼】「薬価中間年改定とジェネリック医薬品の安定供給」坂巻弘之

No.5153 (2023年01月28日発行) P.60

坂巻弘之 (神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科教授)

登録日: 2023-01-05

最終更新日: 2023-01-05

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予算編成の大臣折衝事項に基づき、2023(令和5)年度の薬価改定(中間年改定)は、平均乖離率7.0%の0.625倍(乖離率4.375%)を超える品目とすることが22年12月21日の中央社会保険医療協議会(中医協)薬価専門部会において決定された。薬価改定による薬剤費削減額は3100億円とされ、ジェネリック医薬品による削減額が1210億円、長期収載品によるものが1240億円と、大半が特許切れ市場による削減である。同時に不採算品と新薬創出等加算品への臨時的・特例的な措置も講じられ、とりわけ前者については、急激な原材料費の高騰、供給問題に対応するために全品目を対象に適用することとなった。21年以降、製薬企業の不祥事に起因する供給問題は、22年度も改善は見られず、今回の不採算品再算定品目については、フォローアップも実施される。

そもそも中間年改定は、16(平成28)年12月20日の「薬価制度の抜本改革に向けた基本方針」をふまえ、21年度から実施されている。今回も製薬業界、医療関係者から改定実施への強い反対意見が示されたが、薬価の中間年改定は菅内閣の成果とも言われ、実施そのものには手を付けることはできず、今回も改定範囲をどうするかの技術的議論に終始した。改定範囲の議論となれば、価格が安いため乖離率としては大きくなりがちなジェネリック医薬品が中心になることは自明とも言える。

上述のように、不採算品目について特例的措置が講じられたとは言え、通常改定の年も含め、毎回7%前後(中間年改定については、改定率は公表されず)の引き下げが行われると、ジェネリックの新製品を上市したり、不採算再算定が行われたとしても、ジェネリック企業の経営が立ちいかなくなる可能性が高い。

わが国のジェネリック市場は、欧米先進国と比べても特異である。必要以上の品質が求められ、日本市場のためだけに原薬精製や製剤工夫を行ったり、1錠・1カプセルごとに刻印印刷をしたりと、オーバースペックとも言える製品が求められ、製造コストも高くなる。そのため、外資系ジェネリック企業であっても、共同開発や委託製造により日本市場のためだけの製品を上市したり、日本市場での新製品上市をとりやめたりすることも起きており、製造コストが安定供給リスク要因ともなっている。

新薬については、イノベーションが適切に評価されない日本の薬価制度の問題から、市場の魅力度が下がっているのでは、との指摘がなされているが、国内ジェネリック企業にとっても、開発・製造コストの高騰の一方で、頻回の薬価引き下げは、日本のジェネリック市場の魅力度、あるいは経営の予見可能性を下げていると言える。ジェネリックの安定供給のためには、ジェネリックの製造コストとともに、毎年の薬価改定がジェネリック市場にどのような影響を与えているのかの分析を行い、現行の市場実勢価ベースの薬価改定の在り方を再検討する必要がある。

坂巻弘之(神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科教授)[薬価]

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