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【識者の眼】「裁判記録と診療録は永久保存にすべき」邉見公雄

No.5149 (2022年12月31日発行) P.60

邉見公雄 (全国公私病院連盟会長)

登録日: 2022-12-21

最終更新日: 2022-12-21

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先日、驚くべきニュースが流れた。彼の酒鬼薔薇聖斗が起こした重大少年事件である神戸連続児童殺傷事件の裁判記録が廃棄されていたのである。奈良の医師宅放火殺人事件の裁判記録も同じく廃棄と。

神戸の事件は私が赤穂市民病院に勤務していた頃で、長男が被害者と同じ年齢で背筋が凍り付いた。外出禁止的校長命令が解除された日にオリックス球場の小学生無料招待に参加したことを覚えている。ライトスタンドに陣取り、イチローが投げたボールを取ったら隣のチビが恨めしそうな顔をしていたので差し上げた記憶も。

奈良の事件は逆恨みだったように思うが、私の外科医として最初の赴任地大和高田の近くでもあり、これも鮮明に記憶している。この国は、大事なものほど早く捨てようとする御上の精神が隅々まで行き渡っており、財務省の森友問題も然りである。

このニュースを見ていて40年も前の赤穂での出来事を思い出した。着任早々、私の外来診療に60歳前後の御婦人が乳房のしこりでお見えになった。左右ともにしこりがあり、乳腺症という良性のホルモンバランス不調の疾患と診断。しかし「前回は一部切除して顕微鏡で確認したのに今回はしないのか」と主張されたので、「カルテを確かめるので1週間後に来院を」と依頼。カルテ庫を職員数人が埃まみれで調べたが見当たらず、保存期間を過ぎて廃棄されていたようであった。その後、他にも良悪性境界病変(ボーダーライン)の再診患者や手術した患者の再発疑いなど、同じようにカルテが無い方々が大勢受診された。

がんは普通なら5年再発しなければほぼ完治(略治という)だが、甲状腺癌や乳癌は10年間は安心できない。そんな経験から外科のカルテは10年保存にしてほしいと医事課に頼んだが、そんな余裕はないと一蹴された。院内中を探して結核病棟の空室に積み込んだが、そこもすぐに一杯になり、独身寮の車を持たない外科医の車庫に保存したりした。しかし、これは患者情報保護や守秘義務違反になる恐れもあり、ヒヤヒヤものであった。今では電子カルテをCDにバックアップでき、そういう心配も無くなったのは幸いである。

しかし、ランサムウェアなどのサイバー攻撃からカルテを守る新たな戦略の早期の構築が必要なのであろう。吉原博幸先生の「千年カルテ」なども医療DXで現実的となってきた。裁判記録もそうすべきではなかろうか。岡目八目ではあるが、今の心境を綴ってみた。

邉見公雄(全国公私病院連盟会長)[医師宅放火殺人事件][がん治療]

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